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ベテラン技術士は、かつて機械設計や製図をどのように学んだのか(前編)

2022.07.20

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この記事では…

いまの製造業における設計製図スキルの問題や技術者教育の在り方について、ベテラン技術士の過去を振り返りながら考えていく。(前編)

(執筆:小林 由美)

製造業は、この30年の間で、3D CADの普及が進み、ここ最近はDX(デジタルトランスフォーメーション)も加速している。

今日のように、設計ツールのデジタル化が進んだとしても、結局、機械設計や製図の知識の土台がしっかりしていなければ、結局、無意味なことになる。製造業の機械設計は、粘土をこねくり回してアートを造ることとは異なる。3D CADで形状を作りあげるにしても、なぜその形状や機構となったのか、論理的な根拠を積み重ねた結果としての形状でなければならない。

その土台となるのが、機械製図である。JIS(日本産業規格)で定められる製図ルールは、単なる、図を描くためのルールではなく、機械設計の際の論理的な思考を表現するためのツールである。機械製図は、実物の成り立ちを論理的に分析し、表現するためのものだ。

しかし、社会全体でデジタル化が加速化する一方で、実物に触れる機会がどんどん減少しているためか、機械製図の正しい知識について、腑に落とすことができている人が減ってきている。工業系の大学で製図は履修科目としてあるものの、基本の座学しか教わらない。特に、幾何公差など教員でさえ論理的に教えることが難しい製図ルールは、業務をこなしながら腑に落としていくしかない部分があった。

製造業の多くは、自社内で機械設計・製図に関する体系的な研修や教育を行っておらず、製図に関しては、業務をしながら覚えるOJTスタイルで新人を育成することが多く、今もその現状は大きく変わらない。

国内製造業の技術者教育の現状について、「ほったらかしのOJTになってしまっているところが多い」と表現するのは、ラブノーツの代表を務める技術士(機械部門)の山田学氏だ。

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研修中の山田氏(提供:ラブノーツ)

ラブノーツは機械設計製図の教育に特化した企業で、製図関連書籍の著述や研修の提供など行っている。また代表の山田氏自身、かつてメーカーの機械設計者である。技術系の研修を提供する企業は、機械以外の電機なども含め幅広く取り扱う、あるいはソフトウェアのオペレーション中心のレクチャーなどが多いが、同社は、機械設計製図に特化した研修を提供していることが特色である。先も説明したように、機械製図に関して、学校でも企業でもいまだ十分な教育が行われないことが多く、そのニーズに対応しているためだ。

メーカーを辞め、ラブノーツを立ち上げたきっかけは、2005年の「技術士資格を取得後の在職中に執筆した製図参考書「図面って、どない描くねん!」の出版の反響が大きすぎたこと」であるという。

この本の表現には、たびたびかわいい顔文字が入り、表現も、まるで現場の先輩が説明してくれるかのように、非常にフランクだ。これは、これまでの技術系参考書ではあり得なかったことだ。基本的な内容ではあったものの、現場の実務の中で疑問となりがちなところにフォーカスし、かつ最新のJIS製図を正確に反映した、実用的な解説になっていた。

内容自体の難易度は、現場の技術者からすると基礎レベルの内容でありであり、一見、「工学部を出てきた技術者が、何を今さら、こんな簡単なことを勉強するのだ」と思われかねない内容かもしれない。しかし、その需要が非常にあったことを、初版で40刷、第2版で17刷(2022年6月現在)、累計累計8万5000部という本の部数が証明した形だった。ベストセラーであれば10万部、100万部と刷られる一般書からすると少なく見えるが、技術参考書の世界では初版で3000部も売れずに増刷すらされないことも多い。

「出版を開始して、1週間で緊急重版がかかり、数週間おきに重版連絡が来るし、当時、個人的に解説していた技術解説サイト『エンジニアリング・テクノロジー六自由度」を介して講師依頼が止まらなかった。書きたい本もたくさんあったので、出版から半年後には退社。ちょうど姫路市が製造業の独立支援の一環で事務所家賃助成金の応募を募っていたので、そこに申し込んでプレゼンをしたら、無事申請が通って、姫路市第1号として姫路城前に事務所を開設した」と山田氏は、初めての出版と、独立までの経緯を振り返る。

それ以降は、営業活動を行うことなくひっきりなしに研修の依頼がくる状態であるといい、現在は外部のパートナーである若手の独立技術士や元機械設計者など製図に精通した講師を増やし対応している。

なぜそれで大丈夫だったのか?

機械製図の教育が未整備でも、なぜ過去の製造業では問題が起こらなかったのかと言えば、日本のものづくりの特色でもある「加工技術者のスキルの高さと勝手な気遣い」だ。要は、図面を受け取り、部品を作る側の能力で、図面には要求していない寸法精度や形状精度を担保していたからである。「推して知るべし」あるいは「おもてなし」のような日本人らしい考え方で、図面に不備があったとしても、設計者とコミュニケーションを取りながらうまく意図をくみ取り、過去の経験も生かして部品を作ってきたのである。

近年は、海外の生産が増え、そこでは日本の加工技術者のように気を利かしてはくれない。また、日本語も当然通じない。その際には、海外の規格が既に考慮されているJISのルールに忠実に従い、伝えたいことを全て正確に図面に反映しなければならない。中小企業においてもグローバル化が進んできた頃には、やはり日本側から出す図面の内容が起因として生産現場でトラブルを起こすといったことがよく起こっていた。

山田氏が、著書や研修の場でよく伝えているのが、「グローバル設計を意識した設計」の重要さである。同氏が当時勤めていたメーカーでも、海外向け製品を取り扱っていて、後に海外担当者として携わるようになったそうだが、同氏はそれ以前に、設計業務をこなす傍ら、新入社員のころに英会話や英検2級の取得に取り組んでおり、それが後の海外出張で大いに役立ったという。そのような外国語習得の話だけではなく、「規格に沿って、設計意図が正しく表現されている図面が、世界での共通言語になる」と説明する。

国内の加工現場も高齢化が進み、若い世代への継承が課題となっている。若手が1カ月やそこらで、ベテランの技術者のように、設計者の意図を汲んで精度よく加工できるようになることはない。やはりそこでも、設計者が正確に自分の設計意図を伝える機械製図の知識は必要になる。

山田氏自身、設計者になりたての頃は、「製図の際、軸の端部に面取りがあって例えば『C1』と記入することがあるけど、軸の正面図では軸端の面取りは上下に見えるので、上下ともに『C1』と記入して寸法ダブりと赤ペンチェックされても、『なんで寸法ダブりなのか?』も理解できなかった」と話す(図1)。

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図1 軸に入った面取りの場合、円の周になるため、2カ所に面取りがあることにはならない。(作図は筆者)

機械製図の実務教育の不十分さ

「取引先の有名大企業には、理論や制御に優れた歳上の技術者がいたが、機械要素の設計では秀でている人がいなかった。その事実に気が付いて、同僚たちが遊んでいるのを横目に会社の寮で勉強したり、社外セミナーを受講させてもらったりして、実際に手を動かす機械設計実務の知識を増やすように努力した」(山田氏)。

山田氏自身も、OJTの現場で育ち、設計実務で多くの設計ミスを犯し上司や現場からの厳しい叱責を受け、その経験が技術者教育に活きたかたちとなったという。

次回へ続く

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PlaBase編集部
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