いまの製造業における設計製図スキルの重要性について、ベテラン技術士の過去を振り返りながら考えていく。(後編)
ベテラン技術士は、かつて機械設計や製図をどのように学んだのか(後編)
2022.07.25
この記事では…
(執筆:小林由美)
実物に触れる経験
山田氏が問題視しているのは、若手を中心とする人たちの形状認識力と空間認識力の低下だ。「設計センスに左右するのが、形状認識力と空間認識力だ」(山田氏)。
過去、製図の研修を実施する中で、研修依頼企業の担当者の要望を聞いていく中で、「製図を勉強する以前に、形状把握に問題を抱える新入社員が一定割合で存在し、人事教育として苦労している」と、相談を受けたそうだ。実物の形状や空間を頭の中で正しく認識し、かつ図に表わすスキルが低下しているという。
そこで著書の「図面って、どない描くねん!」や「図面って、どない読むねん!」よりもさらにレベルを落とした空間認識力、図解力に特化した「空間認識力モチアゲ」や「図解力を鍛えるロジカルシンキング」(いずれも日刊工業新聞社より刊)も書くことになり、「ポンチ絵の描き方」や「図解力向上」の基礎研修まで提供している。

「図面って、どない描くねん!」シリーズ
山田氏が、機械製図にかかわる原点となったのが、「小学5年生くらいの時に文化祭か何かの発表で、戦艦大和の断面図が雑誌に載っていて、それを定規で線の長さを測って、電卓をたいて拡大図にして、さらに模造紙に書き写したときにほめてもらったこと」であるという。「同時期におこづかいで戦艦や戦車などのプラモデルを買って組み立てていたことも構造に興味を持つ足掛かりになった」
しかしながら、そんな山田氏も、かつて若手だった当時は、設計センスも空間認識力も自信がなかったという。
「四角いブロック形状の油圧バルブの流路設計で流路の相関位置が理解できず、先輩から『甘い! もっと小型化できる!』と何度も言われるが、どうしても3次元的に交差する流路の位置関係が自分では把握できなかった」(山田氏)。
当時は、2次元CADが普及し始めた頃であり、自身が所属する部署ではドラフターを使った手描きでの設計であったため、3次元的な空間認識力を少しでも理解しようとボール紙を折った模型に、流路に見立てた鉛筆を交差して差し込んで空間の相対的な位置関係を理解したということだ。
山田氏が若手であった頃は、実物に触れる機会も今よりは多く、かつ根気よく指導に携わってくれる先輩や上司に助けられていた。それが今では、3D CADの前にすぐ座らされ、画面越しに形状を検討することが多くなった。画面の中の3Dモデルは実物の形状が正しいものだと錯覚を起こし、スケール感覚も狂いがちだ。
また、いま社会に出てくる若手は、工作をしたりする経験がなく3次元のゲームで遊んできた世代である。山田氏は、「3次元画像のゲームで遊んだ経験から立体形状や空間認識力に優れていると思うかもしれないが、実は「3次元空間的なもの」を2次元のディスプレイ画面上で見ているだけで、そうした実物を触った経験の乏しさが、形状認識力と空間認識力の乏しさとなっている」と指摘する。
これは文学の世界でも同様であるという。「例えば川端康成著の『雪国」の有名な一節である『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という表現がある。文章からその光景を想像する場合、読者それぞれの独創性が育てられる。しかしアニメや映像としてその光景を見せられると、その光景が“正”であると刷り込まれ、読者の想像性は養われない」(山田氏)。

山田氏は3D CADを否定しているわけではなく、そのツールと向き合う以前に、実物の寸法や形状を頭や身体で感じることができなければ、間違った形状でもそれらしく見えてしまう、つまり3Dモデルに騙されてしまうことになるという。同氏の空間認識力や図解力関係の研修でも、その問題を繰り返し伝えている。
効率が重視される今、見直されるべき設計製図のスキル
最近の現場では「作業効率」「生産性」を重視しなければならず、失敗の経験もさせてもらえない。これは、近年の市場の変化の激しさを背景とする短納期化やコストダウンをかなえるためである。設計でのコミュニケーションにおいても、いかに効率を高めるかが重視されてしまう。昔以上に、後輩や部下に丁寧に教える余裕がなくなってしまっている。その背景には、近年のベテランの引退ラッシュと人手不足もある。
そうした時代の変化や現場事情に合わせて、昔とは異なる、今の課題にあった技術者教育をしていくことも重要である。効率化のためにデジタル化による自動化を実現するために、製造業では設計の標準化が進められている。その一環として、製図の標準化も必須となる。
過去にはあまり真剣に向き合ってこなかっただろう機械設計製図のスキルは、今後ますます重要になってきそうだ。
(終わり)
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PlaBase編集部
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