ポリマーアロイを用いたプラスチックの改良について解説する。
ポリマーアロイによる改良:プラスチック材料の基礎知識(17)
2022.08.29
この記事では…
(執筆:本間精一/本間技術士事務所)
プラスチックにはそれぞれ長所と短所がある。ポリマーアロイを開発する目的はプラスチックの長所を保持し、他のプラスチックとアロイにすることで短所を改良することである。
改良する目的には成形流動性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性などがある。
表1にポリマーアロイの改良例を示す。
表1:ポリマーアロイによる改良例

(1)成形流動性の改良
PCは耐衝撃性、耐熱性、耐燃性に優れているが、成形流動性が良くないので成形しにくい。ABS樹脂は流動性や耐衝撃性は優れているが耐熱性や耐燃性が良くない。PC/ABSにすることで、耐衝撃性、耐燃性、流動性の優れたポリマーアロイが得られる。逆に、ABS樹脂から見れば、耐熱性や耐燃性が改良されることになる。
PPEは強度や耐熱性が優れているが成形流動性はよくない。PS-HIは耐衝撃性や成形流動性が優れているが、耐熱性は良くない。PPE/PS-HIにすると強度、耐衝撃性、耐熱性、成形流動性などの優れたポリマーアロイが得られる。逆にPS-HIから見れば耐熱性が改良されたことになる。
(2)耐衝撃性の改良
POMやPAはそれぞれ優れた特性を有しているが、耐衝撃性は良くない。これらのプラスチックとゴム(注1)をポリマーアロイにすると、それぞれの優れた特性を保持したまま耐衝撃性が改良される。
(3)耐熱性の改良
PPEは強度や耐熱性(高温における強度、弾性率)が優れているが耐薬品性や成形流動性は良くない。PAは耐疲労性、成形流動性などは優れているが、耐熱性はあまり良くない。PPE/PAにすることで耐熱性、成形流動性などが優れたポリマ―アロイが得られる。
(4)耐薬品性の改良
PCは耐衝撃性が優れているが溶剤、油類、ガソリンなどと接触するとケミカルクラック(注2)が発生する短所がある。PBTは結晶性プラスチックであるため耐ケミカルクラックが優れているが、ひけ(注3)が発生しやすいなどの短所がある。PC/PBTにすると耐衝撃性や耐ケミカルクラックが優れ、ひけ発生の少ないポリマ―アロイになる。
PPEは耐薬品性が良くないが、PAは耐薬品性が優れている。PPE/PAにすることで、上述の強度、耐熱性に加えて耐薬品性も改良される。
自動車ドア・アウター・ハンドルでの例
次に自動車ドア・アウター・ハンドルにPC/PBTアロイを用いた事例を紹介する(図1)1)。

図1:PC/PBTポリマーアロイと自動車アウタードアハンドルへの応用例 1)
本部品はダイカスト品からPC/PBTアロイに切り替えられた。同部品の性能としては耐衝撃性、耐候性、寸法安定性、良表面外観などが要求される。PCはこれらの要求性能には優れているが、油類、ガソリンなどが付着するとケミカルクラックが発生する問題点がある。PBTは耐ケミカルクラック性が優れているが、寸法安定性、表面外観(ひけ)は良くない。そのため、PC/PBTアロイにすることで本部品に採用された。
(次回へ続く)
執筆者注
注1:ゴム弾性を示すポリマーで、エラストマーと表現することもある。
注2:応力と薬液の共同作用でクラックが発生する現象
注3:成形品の厚肉部の表面に窪みが発生する現象
引用文献
1)三菱エンジニアリングプラスチックス(株)「ユーピロン、ノバレックス、ザンダー」カタログ、p.7(2016)
本間 精一(ほんま・せいいち)
三菱ガス化学、三菱エンジニアリングプラスチックスにおいてPC,POM,変性PPEなどの研究開発に従事。退社後は技術士事務所を開設。プラスチック全般の技術コンサルティングや執筆活動を行っている。著書には「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社)、「プラスチック材料大全」(日刊工業新聞社)、「設計者のためのプラスチックの強度特性」(丸善出版)他多数
