炭化水素の命名法はIUPACによって決められている。しかし最も有名なエチレン、プロピレン、ブテンという名前は、実は全く異なる由来を持っている。炭化水素の異端児の語源について解説する。
なぜエチレン、プロピレン、ブテンという名前なのか?-炭化水素の異端児-
2023.08.17
今回の記事は…
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
以前、ナフサの語源を探る記事(URL:https://plabase.com/news/9406)を執筆しました。普段当たり前のように使っている言葉の語源について振り返ってみる企画でした。ナフサは石油を表すたくさんの言葉の中でも、かなり特異なオリジン(語源)を持っていました。興味をお持ちの方はぜひチェックしてみてください。
さて、今回も言葉について深堀する企画で、皆さんおなじみの炭化水素の名前を巡るお話です。エチレン、プロピレン、ブテンはよく聞く名前だと思いますが、実は炭化水素の命名法からすると異端児で、その語源はかなりユニークで面白いです。今回はその語源に迫りたいと思います。
営業トークに使える豆知識としてぜひご一読いただければと思います。

そもそも、炭化水素の命名法は国際純正・応用化学連合(IUPAC)という団体が1879年に制定しました。基本的には炭素の数とその構造によって自動的に決定するというもので、基本的にはギリシャ数字と炭素の数を対応させています。たとえば、C5H12であれば、炭素の数が5つなので、pentaとなります。あとは単結合か二重結合かによって、-aneとなるか、-eneとなるかが変わるわけです。単結合の炭化水素であればペンタン(pentane)となり、二重結合があればペンテン(pentene)となるわけです。
しかし、下表に示した通り、必ずしもギリシャ数字に従っていないものがあります。灰色で示した箇所をご覧ください。ギリシャ数字と関係のない名前が付いています。しかも、一番よく耳にするし取り扱うことが多いC1~C4の炭化水素です。メタン、エタン、プロパン、ブタンがこれに相当します。
さらに言えば、methaneとethaneの”th”は日本語では「タ」としていますが、英語の発音記号で表すと「θ」ですので、「ス」の音に近い発音で、英語では「メスィン(methane)」「メスィリン(methylene)」「エスィン(ethane)」「エスィリン(ethylene)」と言わないと通じません。日本語と発音が全然違うのです。そもそもスペルが”th”ですから、他の”t”単体とは異なっているので、日本語のカタカナ語は日本人にとって呼びやすいように、原音を日本語の「タ」に寄せて変形させていると言えるでしょう。
こちらも下表に示しましたが、中国語では、干支の1つであり、順位を表す十干(甲・乙・丙・丁・・・)を使用しており、数列の序列通りに表記されています。日本語はIUPACの命名法をそのまま引き継いでいますので、英語のC1~C4の名前の違和感をそのまま引き継いでいることになるのです。

このギリシャ数字によらないC1-C4の呼称は、多くの方が高校の化学で暗記していたり、「プロパンガス」といった日常語を通じて耳にしたりしたことで、当たり前と思っているかもしれません。しかし、よく考えるとかなり不思議ではないでしょうか。実は、この4つの言葉だけは、下表に示した通りギリシャ数字と全く関係ない所から由来しています。
それぞれの語源を見ると、揮発しやすい性質や、油分である点を的確に捉えていることが分かります。メタン(methane)の語源は、紀元前から広く西洋で親しまれていたブドウ酒のワインです。ワインの香りには揮発したアルコール分が含まれます。アルコールももちろん炭化水素ですので、ワインの匂いを嗅いだらメタンを思い出してくださいね。「酔い」という意味が含まれていた所も面白いです。
また、同じく揮発するガスの意味を持つのが、メタンの次に軽いエタン(ethane)です。語源は「天空の領域」とありますが、これは空のかなたに天国や神の領域があると信じられていた頃、軽い空気が上空にあるわけです。ここから転じて、軽くて透明なガスという意味合いから名付けられました。語源が美しいですね。
プロパン(propane)からは比重が重くなっていくこともあり(十分軽質ではありますが)、語源が液体物になってきます(常温常圧下ではC3もC4もガスではありますが)。動物の脂肪(fat)から出る油を語源とするプロパン、そして牛乳の脂肪分から得られるバターを語源とするブタン(butane)と、異なる液体の油を語源としています。ブタンとバターが同語源というのは驚きですね。

以上、炭化水素のなかで最も有名なC1-C4の名前が、実はその命名において異端児だったという驚きの事実を取り上げました。そもそも炭化水素の種類が分類されるようになったのは19世紀のことで、その際に化学者らがギリシャ文字以外のものをあてがったわけですが、語源的に多様であり、そしてそれぞれに意味があったというのは面白い事実だと思います。さて、皆さんは語源的にどの炭化水素の名前がお好きでしょうか?
参考文献
- Oxford English Dictionary. Second edition.
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
