2023年の日本における石油化学産業についてまとめた上、その要因を分析します。
2023年は苦境だった国内石化業界、 減った需要はどこへ?:石油化学市場レポ
2024.01.10
この記事では…
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
今回は、足元で苦境の日本の石油化学産業について簡単にまとめた上で、その要因を分析していきたいと思います。
多くの読者の皆さまがご存じの通り、2023年上期の石油化学メーカーの決算は予算対比で軒並み悪化しました。通年では赤字も散見される状況ですが、中身を見ると交易条件の悪化(原料価格の上昇を製品に転嫁できなかった点や在庫評価損益)のほかに、数量減が目立っています。
2023年はナフサクラッカーの採算や石化製品のマーケットが悪化したのも事実ではありますが、それにもまして出荷数量の減少が響いたと言えます。この点について一つ一つ確認していきましょう。なお、石油会社も石油化学部門を保有していますが、パラキシレンやベンゼンなどアロマ製品のマージンは良好に推移したほか、石油製品と石化製品を分離して収益報告を実施していない会社もあり、いずれにしても黒字であることから、以下の表1からは省きました。

表1:2023年度 上期石化部門のコア営業利益(単位:億円)
石油化学の出発点であるナフサクラッカーの採算(オレフィンやアロマを輸出市況で販売した際に得られるマージン)は今年一貫してネガティブ(赤字)となっています。この点についてはPlaBaseの姉妹サイトであるChematelsの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください(「三重苦」でクラッカー低稼働、副産品供給に影響懸念 【石油化学コンサルタントがずばり解説】 (chematels.com))。日本のクラッカーはオレフィンを中心に余剰バランスで輸出ポジションにありますので、この部分の採算が確保できないとして、国内のクラッカーは軒並み低稼働を余儀なくされ、70%台まで稼働率は低下したということですね。
では、日本のオレフィン輸出は減少したのでしょうか? それが実は、むしろ増加しているのです。奇妙な話ですね。稼働率が大幅に低下してエチレンやプロピレンの生産量は減少したにもかかわらず、グラフ1のとおり輸出は増加しました。2023年1~9月は両者合計して93.4万トンが海外に向けられた一方、2022年同期は62万トン、2021年同期は90万トンと2023年よりも少ないことが分かります。

グラフ1:日本のオレフィン輸出量(2020~2023年、1~9月期)
これらのデータ、つまりオレフィンの生産量が、減少したにもかかわらず輸出数量が増加したことから読み取れるのは、国内のポリオレフィンや塩ビなどオレフィン誘導品向け需要が大幅に減少したということです。国内向け需要の縮小はクラッカーの減産だけで対応できず、稼働を実質的に最小(75%程度がクラッカーの稼働下限)にした上で、さらに輸出せざるを得ない状況だったということになります。実際、日本国内のオレフィン誘導品の内需(「生産+輸入-輸出」として算出)は大幅に減少しました。下のグラフ2は、2017年を基準にどの程度需要が縮小したのかを表していますが、2023年は2017年対比で20%も内需が減少していることが分かります。

グラフ2:国内におけるオレフィン誘導品の推定需要
また、2023年はコロナショックのあった2020年と同等ないしはさらに低迷している状況となっており、かなり異常であることが分かると思います。日本のGDP成長率は7~9月にマイナス成長だったことが報じられましたが、それでも通年では1~2%程度のプラス成長が見込まれています。さらに2017年に比較すれば小幅なれども年々成長していることは確実なわけですから、このプラスチックの内需減少は非常に特異であり、深刻と言えます。
このように見てくると、冒頭の石化メーカーの決算悪化の一因であった「出荷減」というのはうなずけることかと思います。内需そのものが減少したのですから、販売数量も減少せざるを得ないわけです。
国内需要の減少は、様々な理由が混在していると想定されます。
「フードロス削減の推進に伴い、食品パッケージの需要が減ったこと」
「高値が嫌気されるとともに環境対応の面からプラチックから紙など代替材料へとシフトしたこと」
「人手不足を背景として公共事業など建設需要が低迷したこと」
「インフレの進行に伴い消費者の購買意欲が住宅、日用品、雑貨など幅広い分野で低下したこと」
「最終製品における中国向けの需要が低迷したこと」
......など、その理由は枚挙にいとまがありません。
2024年は需要の最悪期を脱するとの見方を当然どの石化メーカーもしているわけですが、仮に需要そのものの構造変化が発生しているとすると、言い換えるなら、フードロス削減の流れやプラスチック不使用の風潮などがその根本的な要因とすると、慢性的に需要は低位となる可能性もあります。仮にそうだとすれば、もう一段の生産の合理化は免れないものと想定されます。この点は2024年の動向次第でより明確に浮かび上がってくると思いますし、引き続きPlaBaseのコラムで追いかけていきます。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
