成形トラブルの原因ともなる残留ひずみについて解説する。
残留ひずみはなぜ発生するか①―射出成形の冷却過程で発生する残留ひずみ:プラスチックの強度(30)
2024.06.05
今回の記事では…
(執筆:本間精一/本間技術士事務所)
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残留ひずみとは、成形過程で生じたひずみが成形後においても残留しているひずみのことである。成形に関しては残留ひずみという用語を用いるが、クラックが発生したことによる割れトラブルでは応力の値が問題になることから残留応力という用語を用いることが多い。応力とひずみが比例する場合には、残留ひずみと残留応力の関係は次式で示される。
σ=E×ε (1)
σ:残留応力(MPa) E:弾性率(MPa) ε:残留ひずみ
式(1)から、残留ひずみεの大きさが同じでも材料の弾性率が高いと残留応力は大きくなることが分かる。ただ、プラスチックは応力緩和1)が起きるので、発生直後の残留応力は時間が経過すると一定の値まで減少する性質がある。
残留ひずみは複雑な成形現象であるが、ここでは発生原理を簡略化して説明する。射出成形では型内に充填された溶融樹脂は温度低下につれて収縮する。収縮は一様ではなく、収縮が小さい部分と大きい部分が生じる。冷却した後では収縮の小さい部分は寸法が大きくなり、収縮が大きい部分の寸法は小さくなる。
図1は収縮の大きい部分(寸法が小)が収縮の小さい部分(寸法が大)によって収縮が拘束されたときの概念図である。

図1 残留ひずみの発生モデル
収縮が拘束されないときは寸法L0(編集部注:0は下付き文字)まで収縮するが、収縮が拘束されたため寸法L1(編集部注:1は下付き文字)までしか収縮できないとき、残留ひずみは次式で表される。
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従って、収縮差が大きいほど、言い換えればL1とL0の差が大きいほど残留ひずみは大きくなる。
射出成形の原理から残留ひずみが発生することは避けられないが、クラックや反りが生じないレベルに残留ひずみ(残留応力)を低く抑える必要がある。
主な対策は次の通りである。
① 設計上では均一な肉厚に設計し、鋭角コーナーを避ける。
② 成形条件では金型温度を高く、保圧を低くする。
③ 成形後アニールにアニール処理2)して残留ひずみを低減する。
残留ひずみが過大であるときには、次の不具合が生じるので注意しなければならない。ケミカルクラック3)は残留応力が小さくても発生する。図2(a)はポリカーボネート(PC)成形品の鋭角コーナー部(残留応力発生個所)に揮発油が付着してケミカルクラックが発生した例である。同図(b)はクラック発生部の破面である。

図2 残留応力発生個所に揮発油が付着ときのケミカルクラック(PC成形品)
残留ひずみが解放されると寸法変化やそりが生じる。図3はポリプロピレン(PP)の箱型成形品の残留ひずみが解放されたことによる内反りの例である。

図3 箱型成形品の残留ひずみの解放による側部内反り例(PP成形品)
編集部注:
1) プラスチック製品に一定にひずみを与えた場合、直後に発生した応力(初期応力)が時間経過すると一定の値まで減少する特性である。
2) 成形品を熱処理して残留ひずみを低減させること。
3) 溶剤、油類、可塑剤などの化学物質と応力のもとでクラックが発生する現象である。ケミカルクラックは非晶性プラスチックで発生しやすい。
(次回へつづく)
本間 精一(ほんま・せいいち)
三菱ガス化学、三菱エンジニアリングプラスチックスにおいてPC,POM,変性PPEなどの研究開発に従事。退社後は技術士事務所を開設。プラスチック全般の技術コンサルティングや執筆活動を行っている。著書には「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社)、「プラスチック材料大全」(日刊工業新聞社)、「設計者のためのプラスチックの強度特性」(丸善出版)他多数
