かつておもちゃメーカーで生技や品証をやっていた筆者。日常生活でも手に取るモノに使われているプラスチックの種類を同定しがち。今回は、調理器具に注目してみました。
見た目は同じ、素材は違う!? キッチンツールに使われるプラスチック:生活とプラスチック(2)
2024.04.22
今回の記事では…
(執筆:おりも みか/製造業ライター)
生活で何気なく使う家電や器具に、どんなプラスチックが使われているか観察してみる本コラム。前回は、調理「家電」にどのようなプラスチックが使われているのかを見てみました。今回は、調理「器具」(電気が使われていない道具)に注目しました。
これらはいずれも、キッチンツールとして販売されているプラスチック製容器です。

……どれも、「プラスチック容器」ですよね。
見ただけではほとんど同じに見えるこちらの透明なプラスチック製容器は、全て材料が異なります。
前回、一般的に広く食品保存容器として使用されているのは、PP樹脂(ポリプロピレン)が多いとお話しました。しかし、少し素材に注意してみると、実にさまざまな種類のプラスチックが使用されていることに気が付きます。
上の写真、左上にある最も小さな容器はPP樹脂製です。

100円ショップなどで購入でき、安価で用途に合わせて色々な大きさやデザインが販売されています。耐熱温度は-20℃~120℃。電子レンジや冷蔵庫でも使用できます。
上の写真、右上にあった容器は、100円ショップで購入しました。

こちらはPMMA樹脂(メタクリル)製です。アクリルとも呼ばれます。透明度が高く質感が固めのため、ガラスっぽさがあり高級感があります。しかしこちらは耐熱温度が-20℃~80℃で、電子レンジや食洗器での使用はできません。また、アクリル樹脂は耐衝撃性が低い(割れやすく)、PPに比べると耐薬品性は高くありません。こちらは「見た目の美しさ」を重視した製品と言えます。
写真の右下にあった容器は、人気雑貨店で購入したものです。

こちらは、すぐ上で説明したPMMA製のケースと見た目が似ていて、それより透明度が高くなっていますが、耐熱温度は-20℃~140℃と高めです。これはPMP(ポリメチルペンテン)です。PMPの特徴は高い透明度と耐熱性の高さ、そして耐薬品性に優れていることです。また、汚れがつきにくい特性もあります。しかし100円ショップのものとは10倍ほどの値段差があります。
写真左下にあった茶色っぽい容器は食品用ではなく、冷蔵庫の中を整理するためのトレーです。

こちらはPET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)製です。ペットボトルに使用される材料でおなじみですが、こちらは耐熱温度が-20℃~60℃です。加熱することは想定されていません。安価でリサイクル性が良いことがメリットです。
家庭生活で使用する場合にも気を付けたい、プラスチックあれこれ
簡単に手に入り、どれも似たような見た目のキッチンツールでも、材料が異なります。材料が異なれば、当然特性も違ってきます。どれも同じだと思って食洗器や電子レンジにかけてしまうと、変形したり破損したりしてしまうことがあります。種類までは意識しなくとも、製品に書かれている耐熱温度のチェックは、最低限したほうがよいですね。
また同じ製品でも、部品や部位によって材料が異なる場合があります。たとえば食品保存用容器自体はPP製でも、蓋はPE樹脂(ポリエチレン)製ということがあります。PPに比べてPEは耐熱性が低く、加熱すると変形して蓋が閉まらなくなってしまうことがあります。「電子レンジにかける際は蓋を外してください」と注意書きがある際は気をつけましょう。私の家でも、家族がまとめて食器洗浄乾燥機で洗ってしまい、蓋が閉まらなくなった保存容器がいくつもあります。
あの人気グッズとシリコーン
PPとPEは身の回りでよく使用されている樹脂ですが、PPは固く、PEはやわらかく粘りのある材料です。人気雑貨店では、PP製の「軽いまな板」の隣に、PE製の「曲がるまな板」が販売されていました。メーカーは樹脂の特性を生かして、製品にバリエーションを持たせているのです。
下の写真も、どれも形がよく似たキッチンツールです。

中央と右、どこで買ったか……お察しいただけるかと思います(笑)
一番左端のおたまは100円ショップで購入したもので、PP樹脂製です。他の2つは、人気雑貨店で購入しました。値段差はおよそ5倍です。見た目はよく似ていますが、材料の樹脂が異なります。写真一番右のターナーの方はガラス繊維強化のPA(ポリアミド、ナイロン)樹脂製です。PAにガラス繊維を配合することで、耐熱性や耐久性などを高めた材料です。エンジニアリングプラスチックに分類され、汎用プラスチックに比べると高価です。ガラス繊維強化樹脂は、ファミリーレストランなどで使われるお箸などにもよく使用されています。
近年、キッチンツールに「シリコーンゴム」がよく使用されるようになりました。シリコーンは耐熱性・耐寒性が高く、耐水性・耐薬品性に優れます。柔らかく変形してもすぐに元の形に戻るので、キッチンツールとしても適しています。しかしシリコーンゴムは名前の通り、プラスチックというよりはゴムに分類され、成形方法も異なります。100円ショップなどでも、シリコーンゴム製の製菓型などが販売されるようになり、より身近になりましたが、ゴムなので触るとすこしべたつくような感触があります。
シリコーンゴムを使用した成形品は硬度の設定が肝になります。キッチンツールではやわらかすぎるものは使いにくいのです。逆に固すぎると、シリコーンゴムは他のゴム類に比べて引き裂き強度が低いため、破損しやすくなります。そこでメーカーは先端部分だけをシリコーンゴムにするなどの工夫によって、より使いやすさを向上させているのです。
上の写真中央にあるシリコーンゴム製調理スプーンは大人気商品としてネットでも話題になりましたが、PA樹脂をシリコーンゴムでコーティングしています。

スプーンの先の方だけ柔らかい。コーティングしてあるフライパンを傷つけなくて済む。:編集担当が私物を撮影。
触ると中に固い芯のようなものがあり、これがPAの成形品だと分かります。シリコーンゴムとプラスチックの両方を使用することでお互いの短所を補い合い、さらに一体成形することで洗いやすさなどにも考慮しているわけです。
使用場所や使用方法、使いやすさなども考慮した上で、材料を選定してプラスチック製品は作られているのです。同じような見た目でも、値段や使用感、耐久性が異なってきます。値段だけではなく、ぜひ樹脂の種類にも注目してキッチンツールを選んでみてください。
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新卒入社した玩具製造メーカーにて品質・生産技術担当として日本国内・中国工場での新規ライン立ち上げを経験。玩具、アミューズメント機器、医療機器、健康雑貨など主にプラスチック製品の開発・製造に携わる。結婚を機に退職し、現在は育児の傍ら製造業ライターとして活動中。Twitter ID:@jilljean0506

