現在の石油需給の構造変化や石化産業に対する影響について詳しく解説します。
石油需給の構造変化が石化産業に及ぼす影響(2):石油化学市場レポ
2024.10.02
この記事では…
(執筆:柳本浩希/石油化学コンサルタント)
前回は石油需給の構造変化と、今後のマーケットを動かすポイントについて解説し、先行きについて需給環境や相場のセンチメントが悪化する可能性を示しました。今回は原油相場の動きを分析しながら、原油やナフサ相場が今後下落に転じる可能性と、その場合の石化産業への影響を検討します。
マーケット分析と原油相場の動き
足元の原油相場は、上値と底値が次第にしぼんできており、次第に身動きが取れなくなるデッドロック状態へと近づきつつあります。過去に同様のトレンドを形成したのは、上の表に示した通り、シェール革命直前の2013年とコロナショック前の2019年であり、両者ともに相場は急落という帰結を生んでいます(図1)。そのため、やや視点を引いたテクニカル分析の立場から言えば、今後相場は一気に調整安となる可能性を含んでいると言えます。

図1 ブレント原油価格(ドル/バレル)の推移
基本的な西洋思想の1つとして、人間のあらゆる行動には一定の法則性がある(ひいてはそこに神の意志が宿る)というものがありますが、マーケットのテクニカル分析もそのような思想がベースにあり、科学的解析に意味を持たせて近現代の欧米を中心に発展してきました(同様の分析手法は江戸時代のコメの先物取引にも存在していましたので、もともと西洋固有のものであったというわけではありません)。
そして、この分析はAIによる実際のトレーディングにも生かされていることから実際の相場の値動は回帰的になっており、テクニカル分析に対しても一定の信頼性と権威を与えています。だからこそ、過去に2度あったようなデッドロック状態の後の急落局面には注意しておきたいところです。そして奇遇ではありますが、前回の記事に示した通り、ファンダメンタルズ(需給環境)においても下落材料が多くなってきています。
この不況期を脱するには?
さて、このような原油相場の調整安が顕在化した場合、石化産業はどのような影響を受けるのでしょうか。周知のとおり、足元において東アジアのナフサベースの石化産業は中長期的なマーケットのスーパーサイクルの不況期に陥っています。このスーパーサイクルとは一つひとつの生産装置の規模が大きい装置産業である石化産業において、需給ギャップが定期的に「供給過多・需要不足」と「供給不足・需要過多」という両極にある好不況の局面を定期的に繰り返すものです。これまではあくまで原料はナフサがベースであったことから、このサイクルの通り好不況が繰り返し訪れていましたが、足元はエタンなど割安なガス原料ベースの製品シェアも伸びてきており、ナフサベースの製品マージンは史上稀に見る危機的状況となっています。
国内では割高なナフサベースの製品に輸入品が取って代わっている状況にある他、円安を背景に川下の産業空洞化が止まらず、企業の人件費は大幅に増加しています。日本国内における石化設備運用は極めて厳しい状況であると言えます。ナフサクラッカーの最大の誘導品であるポリオレフィンでは、内需縮小と輸入品のシェア拡大がゆっくりと、しかし着実に進行しています。既にナフサクラッカーの再編は集積地区において詳細検討が始まっており、一部の企業は既に統合に向けた検討開始を公表しています。
かかる環境下において、原油相場が下落することは日本や東アジアのナフサベースの石化産業にとって最悪期を脱する手掛かりとなると想定されます。過去、原油やナフサ相場が下落しても石化製品はその値下がりは限定的であり、ナフサベースのマージンは確保されやすい状況となってきました。下の図2に示した通り、原油の価格とナフサのクラックマージン(ナフサを分解することで得られる石化製品のマージン)は反比例の関係にあります。

図2 原油の価格とナフサのクラックマージンの推移
付加価値比率の低い地区の再編統合は必要ではある点は議論の余地がないものの、産業全体が将来にわたって悲観的なのかと問われれば、決してそうではありません。周りが皆将来を絶望視する中で見い出される反転シナリオにも目を向けておきたいところです。
本論ではその萌芽として石油需給の構造変化と、来る米国大統領選挙におけるトランプ氏の返り咲きシナリオ(前回)をおきました。厳しい環境にあるからこそ、自社内での検討だけではなく、時には外部の専門家の意見を取り入れるなど、視野を広く持ち足元の環境が変化することを前提におきながら事業を計画することが求められます。
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1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
