MI(マテリアルズ・インフォマティクス)の識者が解説! 今回はLLM(大規模言語モデル)や生成AIなど新興技術がMIに与えるインパクトや、人材育成、組織の在り方などについて解説する。
AIの進化とMIを基盤とした組織の形:研究開発DXが拓く新たな価値創造(後編)
2025.01.29
この記事では…
(執筆:入江 満/MI-6株式会社 取締役、miLab 編集長)
>>前編
新興技術のインパクトとMIの未来
LLMと自律型研究ロボット
近年の大規模言語モデル(LLM)や生成AIの進展は、材料開発にも波及しつつあります。自然言語で材料特性の解釈、論文要約、実験設計案のアイデア創出を行えるAIエージェントによって、研究者の意思決定はさらに支援されることになります。このような取り組みは既に検証されはじめており、研究報告も出てきています。
今後、そのようなAIエージェントと、実験自動化を可能にするロボティクス技術やリアルタイムセンシング技術が統合されれば、ラボラトリーオートメーション(自走する研究室)の実現が近くなります。仮説立案から実験、データ解析、次の実験計画立案までを自律的に回す「自己学習型ロボット研究者」が登場し、研究者と機械のコラボレーションのパラダイムがさらに刷新されることになるでしょう。AIの進歩に比べハードウェアの革新には時間がかかるため、実現はそう近くはないと考えられてはいますが、一方で柔軟なタスクをこなせる人型ロボットの開発報告が米国や中国から出てきており、急速な技術進歩への予兆も見られます。
マルチスケールシミュレーションとデジタルツイン
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)と各種理論シミュレーション手法の連携により、ナノスケール(例:第一原理計算による電子構造解析)からマイクロ・メゾスケール(例:分子動力学シミュレーションによる欠陥形成や界面挙動評価)、さらにはマクロスケール(例:有限要素法による部品・構造レベルの力学的特性予測)へと拡張する一貫した解析フレームワークの構築の可能性が、少しずつ高まってきました。
このようなマルチスケール解析は、計算空間および時間領域を大幅に拡大するため、従来をはるかに上回る計算資源やメモリ、高性能計算環境の確保を必要とします。特に、精度の確保が重要となる第一原理計算や、大規模な原子・分子集団の挙動を統計的に扱う分子動力学シミュレーションは、膨大な計算コストと最適化を伴います。そのため、機械学習を用いた電子相関や力場のモデル化、計算手法間の動的リンクによるスケール間の橋渡しといった取り組みにおける技術革新が求められています
マルチスケールシミュレーションがさらに拡張すれば、実験プロセスを丸ごとサイバー空間に投影したデジタルツインの可能性が見えてきます。研究開発DXは、こうした仮想環境と実環境を融合した新たなR&Dエコシステムの構築も視野に入れるものです。
まだまだ社会実装への道のりは長い技術ですが、着実に活用の幅は広がっています。

長期的なインパクトづくりの鍵
人材育成とデータ駆動文化の醸成
研究開発DXは技術導入だけでは完結しません。人材育成、組織文化改革、データ共有基盤の整備など、多面的な対応が必要です。特に、人材面ではデータサイエンス・MI専門家、計算化学者、ラボオートメーション技術者、そしてこれらを橋渡しするMIやDXを推進する人材が求められます。
機械の高度化によって、研究者が創造的アイデアを生み出す空間は拡大します。逆に、研究者はより高次な仮説設計にシフトする必要が生まれるとも言えます。そういう環境でより活躍できるようになるための研究者育成に、いまから取り組むことが求められます。
組織を越えたMIエコシステムの確立
広義のMI基盤が整い、データ駆動文化が多くの組織で醸成されることにより、組織を超えてデータや知見を共有するエコシステムが誕生する期待があります。サプライチェーンを横断するデータ共創や環境規制への対応ノウハウの集積など、共通プラットフォームが生まれることで新たなビジネスモデルが誕生し、産業全体の活性化を促進することにもつながります。また、国際的な政策支援や標準化ルールの制定も、MIと研究開発DXの拡大を後押しするものです。このようなエコシステムは概念上においては語りやすいものですが、各組織の「資産」をシェアする非常に繊細な取り組みであり、実現への道のりは個社の研究開発DXよりも困難なはずです。これまでの産官学による検証も大きな成果がまだ見えていない現状から、時間をかけてブレイクスルーを起こしていく継続的な試行錯誤とコミットメントが必要だと感じています。
おわりに
狭義のMIが示した「材料逆問題解決」の可能性に、広義のMIがもたらすプラットフォーム戦略、組織変革が重なり合うことで、これまでにないスピードと広がりをもって、研究開発と新材料の地平を切り拓いていく。研究開発DXを、そのような変革の期待がある取組みであるものとして説明しました。
環境負荷低減、製品ライフサイクル短縮化、多機能・高機能化といった、今日の素材産業の課題に応える大きな道としてのDXでありMIです。本記事がそのような視点で捉える一助になれば幸いです。
【参考資料】
・マテリアルズ・インフォマティクスと研究開発DX
・LLMの材料開発における活用事例 part1
・LLMの材料開発における活用事例 part2
>>>>連載「化学業界・材料開発におけるAI・MI活用ガイド」一覧
プロフィール

入江 満(いりえ・みつる)
MI-6株式会社 取締役 / miLab 編集長
東京工業大学・大学院(現:Science Tokyo)においてバイオインフォマティクスを専攻。政策コンサルティング会社、ITベンチャーを経て、当社共同創業。MIを基軸にした解析サービスおよびプロダクトの開発を牽引。現在は事業・プロダクト・R&Dの責任者として執行全般を統括。
■MI-6による研究開発DX/MIメディア「miLab」
https://mi-6.co.jp/milab/
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PlaBase編集部
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