有限要素法(FEM)プログラムにおける歴史的な原点を見ていきます。
ダ ヴィンチからはじまる構造解析の歴史:CAEと有限要素法(4)
2025.04.21この記事では…
(執筆:武藤一夫/株式会社武藤技術研究所 代表取締役 博士(工学) )
今日のCAEの基となる構造解析プログラムは、「マトリックス変位法」といわれています。
前々回はこのマトリックス変位法の基本的な原理について、つまり複雑な微分方程式を離散的に展開して、1次式のマトリックスに分解して解を得ることを確認しました。前回は、CAEの小史の1970年代に触れました。
今回は、有限要素法(FEM)プログラムにおける歴史的な原点を見ていきます。
FEMプログラム、すなわち強度計算の原点は非常に古く、1970年代以前のルネッサンス時代を生きたレオナルド・ダ・ヴィンチにあります。さらに、ガリレオ、デカルト、トリチェリ、ウォリス、ホイヘンスなど、中世・近世・現代に活躍した物理学者や数学者たちが、今日の強度計算の基礎を作り上げました。

万能の人・ダ ヴィンチが引張強度試験の方法を考案
レオナルド ダ ヴィンチ(1452–1519)は、イタリアにおけるルネサンス期の画家、彫刻家、科学者、技術者、哲学者で、「万能の人」と称されています。絵画作品や、数多くの手稿を残しています。解剖学、機械工学、水力学、築城、橋、飛行など、多岐にわたる分野の技術も発案・発明しています。ダ ヴィンチは、針金の引張強度の試験方法を手稿に記しています。それが、現在確認できる中では世界最古の引張強度試験の記録と言われています。
ガリレオ・ガリレイ(伊国人、天文学者、数学者、1564‐1642)は、1638年、『二つの新しい科学』という本を出版し、その中で単純な構造の破壊について取り上げています。張力を受けた棒の破断荷重を調査し、荷重は長さに依存せず、断面積に比例するという考察をしています。
1660年、ロバート・フック(英国人、自然哲学者、1635-1703)は、弾性法則である『フックの法則』を発見し、弾性ばねの伸びに伴う張力の直線的な変化を説明しました。
1687年には、アイザック・ニュートン(英国人、自然哲学者、1642-1727)がニュートンの運動の法則をまとめた『自然哲学の数学的原理』を出版し、古典力学の理論の数学的基礎を形成しました。
ベルヌーイらが築いた三角級数解の基礎
1715年には、ヨハン・ベルヌーイ(スイス人、数学者、1667-1748)が、力学におけるエネルギー原理である『仮想仕事の原理』を提唱しました。1730年頃には、ヨハン・ベルヌーイの息子であるダニエル・ベルヌーイ(スイス人、数学者、1700-1782)が、空気力学で重要な役割を果す『ベルヌーイの定理』を発見し、1738年に最も重要な著書『流体力学』Hydrodynamic』を出版しています。
それからしばらく経ち、1750年には、レオンハルト・オイラー(スイス人、数学者、1707-1783)とダニエル・ベルヌーイが、『オイラー・ベルヌーイの梁(ビーム)理論(方程式)』をまとめ、ビームのたわみと加荷重との関係を明らかにしました。ここでは、弾性率、曲げモーメント、曲げ剛性といった概念が用いられました。
1753年にダニエル・ベルヌーイは、『弦の振動論』を発表しています。「弦の振動は正弦波の重ね合わせで表現できる」という理論です。
弦の単振動解はブルック・テイラー(英国人、数学者、1685-1731)による理論です。さらにダニエル・ベルヌーイは、正弦波による現象である振動の近似に適していた三角関数で記述します。この三角級数解の考え方は、後の『ガラーキン法』や『モード解析』などの基礎的概念につながり、FEMの数学的な土台となります。
(次回へ続く)
参考・引用文献
- 「エンジニア必携トヨタに学ぶデジタル生産・事例・用語集」(産業図書:2021年12月)武藤一夫・著
- 「図解CAD/CAM入門」(大河出版:2012年8月)武藤一夫・著
- 「進化しつづけるトヨタのデジタル生産システムのデジタルのすべて」(技術評論社:2007年12月)武藤一夫・著
- 「実践メカトロニクス入門」(オーム社:2006年6月)武藤一夫・著
- 「はじめてのCAD/CAM」(工業調査会:2000年2月)武藤一夫・著
- 「実用CAD/CAM用語辞典」(日刊工業新聞社:1998年6月)武藤一夫・著
- ウィキペディア
武藤 一夫(むとう・かずお)
株式会社武藤技術研究所 代表取締役、博士(工学)。
1982年以来、職業能力開発総合大(旧訓練大学校)に約29年、静岡理工科大学に4年、豊橋技術科学大学に2年、八戸工業大学大学に8年、合計43年間大学教員。7年前に起業して、現在、株式会社武藤技術研究所代表取締役社長。AEセンシングとそのセンサー開発、特にデジタル式音響コム型AEセンサーの開発・販売、また企業の技術支援・技能伝承を含むコンサルティングをしています。これまで、トヨタ自動車をはじめ世界のフォード、クライスラ、GM、ダイムラーベンツ、BMW、アウディ、ヒュンダイなどを訪問をしました。多くの企業での招待講演、R&D支援センターをはじめとしたセミナー講演、マツダ系のテアワンなど多くの企業でコンサル・顧問などを従事。著書は機械加工、計測、メカトロ、金型設計・加工、CAD・CAE・CAM・CAT・Network、デジタルマニュファクチャリング、辞書など著書32冊。学術論文58件、計測工学や実装技術などの専門雑誌300件以上。厚生労働省の技能審議会委員・検定委員。自動車技術会編集委員等歴任。自動車技術会フェロー。


