有限要素法(FEM)プログラムにおける歴史的な原点を見ていきます。
CAEソフトでよく見られる方程式の生みの親たちの功績
2025.04.23この記事では…
(執筆:武藤一夫/株式会社武藤技術研究所 代表取締役 博士(工学) )
前回は、有限要素法(FEM)プログラムの原点となる理論を確立した中世・近世の学者や功績について紹介しました。今回は、近世から近現代にかけての構造工学の発展について取り上げます。

さまざまな構造解析の方程式とFEMの先駆け的手法
現在流通する解析ソフトウェア(CAEソフトウェア)でもよく見かける方程式がいくつか登場します。
スイスの天文物理学者のレオンハルト・オイラー(1707-1783)は、剛体の回転運動の計算で使われる『オイラーの運動方程式』の生みの親です。1744年に、柱の座屈理論を考案し『オイラーの臨界荷重』を発表しました。さらにオイラーは1760年に剛体の力学を論じ、剛体に固定した運動座標系を導入して『オイラーの運動方程式』を得て、これを発展させました。
フランスの数学者であるアンリ・ナビエ(クロード・ルイ・マリー・アンリ・ナビエ:1785-1836)は、流体解析ソフトウェアの非線型偏微分方程式として有名な『ナビエ–ストークス方程式』の名にある通り、それを導いた一人です(もう一人は、アイルランドの数学者であるジョージ・ガブリエル・ストークス)。ナビエは、構造力学の分野においてもさまざまな功績を残しました。ナビエは1821年に、数学的に使用可能な形式で弾性の一般理論を『ナビエ・コーシー方程式』として定式化しています。この理論でもって、ガリレオ・ガリレイによる応力分布の解釈や曲げモーメントの計算方法などの誤りを修正しています。ナビエは1826年に、面積の2次モーメントに依存しない材料の特性として弾性率を確立し、構造物の弾性挙動に関する論文を発表しました。
イタリアの数学者であるカルロ・アルベルト・カスティリアーノ(1847-1884)は、1873年に論文『弾性体の内在』で、変位をひずみエネルギーの偏微分として計算する定理を発表しました。この定理には、『最小仕事の原理』も含まれます。
熱力学第二法則である『トムソンの原理』を発表した、イギリスの物理学者のウィリアム・トムソン(1824-1907)は、科学への多大な貢献が称えられ、「ケルビン男爵」の称号を授与されました。熱力学温度の単位「ケルビン」は、この爵位名に由来しています。トムソンは、1848年に『ナビエ・コーシー方程式』の最も重要な解は、「無限等方性媒体内の1点に作用する力に対する解である」と発表しました。
ねじり・剪断変形理論であり、FEMソフトウェアの境界条件などにもかかわる『サンブナンの原理』は、1855年に、フランスの数学者であるアデマール・ジャン・クロード・バレー・ド・サン=ブナン(1797-1886)により提唱されました。ここでの梁の材料力学的理論 とは主に2 次元理論の段階までの理論を指します。
ロシアがルーツのアメリカ人物理学者であるスティーブン・ティモシェンコ(1878-1972)は、「現代応用力学の父」と言われています。ティモシェンコは、『ティモシェンコ・エーレンフェスト梁理論(ティモシェンコ梁理論)』を1907年に発表しています。剪断変形などを考慮して梁の計算精度を高めた理論です。
アメリカの構造工学者であるハーディ・クロス(1885-1959)は、1936年に『モーメント分布法』を発表しました。これは後に、配管の流れの問題に適用できる緩和法の一種『ハーディ・クロス法』として認識されるようになりました。
ロシアの構造工学者であるアレクサンダー・フレニコフ(1896-1984)は、1941年にマサチューセッツ工科大学(MIT)に格子フレームワークを用いた平面弾性問題の離散化に関する理学博士論文を提出しました。
ドイツおよびアメリカの数学者であるリヒャルト・クーラント(1888-1972)は1942年に、偏微分方程式の近似解法として、領域を三角形で分割する手法を編み出しました。それが今日のFEMの先駆け的手法と言われています。
(次回へ続く)
参考・引用文献
- 「エンジニア必携トヨタに学ぶデジタル生産・事例・用語集」(産業図書:2021年12月)武藤一夫・著
- 「図解CAD/CAM入門」(大河出版:2012年8月)武藤一夫・著
- 「進化しつづけるトヨタのデジタル生産システムのデジタルのすべて」(技術評論社:2007年12月)武藤一夫・著
- 「実践メカトロニクス入門」(オーム社:2006年6月)武藤一夫・著
- 「はじめてのCAD/CAM」(工業調査会:2000年2月)武藤一夫・著
- 「実用CAD/CAM用語辞典」(日刊工業新聞社:1998年6月)武藤一夫・著
- ウィキペディア
武藤 一夫(むとう・かずお)
株式会社武藤技術研究所 代表取締役、博士(工学)。
1982年以来、職業能力開発総合大(旧訓練大学校)に約29年、静岡理工科大学に4年、豊橋技術科学大学に2年、八戸工業大学大学に8年、合計43年間大学教員。7年前に起業して、現在、株式会社武藤技術研究所代表取締役社長。AEセンシングとそのセンサー開発、特にデジタル式音響コム型AEセンサーの開発・販売、また企業の技術支援・技能伝承を含むコンサルティングをしています。これまで、トヨタ自動車をはじめ世界のフォード、クライスラ、GM、ダイムラーベンツ、BMW、アウディ、ヒュンダイなどを訪問をしました。多くの企業での招待講演、R&D支援センターをはじめとしたセミナー講演、マツダ系のテアワンなど多くの企業でコンサル・顧問などを従事。著書は機械加工、計測、メカトロ、金型設計・加工、CAD・CAE・CAM・CAT・Network、デジタルマニュファクチャリング、辞書など著書32冊。学術論文58件、計測工学や実装技術などの専門雑誌300件以上。厚生労働省の技能審議会委員・検定委員。自動車技術会編集委員等歴任。自動車技術会フェロー。


