トランプ関税によって日本の石化産業にどのようなインパクトを与えたのか、そして与える可能性があるのかを解説します。
トランプ関税と石化産業(後編)――トランプ関税は日本の石化産業にどんな影響を及ぼすか:石油化学市場レポ
2025.06.04
この記事では...
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
前回のコラムでは、トランプ大統領の内政、外交戦略の変化についてアメリカの歴史から位置づけた上で再解釈し、いま潮目を迎えていることを解説しました。
今回は具体的にトランプ関税によって日本の石化産業にどのようなインパクトを与えたのか、そして与える可能性があるのか、いくつかのテーマごとに解説します。

原油、ナフサ相場の下落
トランプ大統領が貿易赤字の相手国に対して相互関税を発表してから、世界経済後退リスクが高まり原油は株式といったリスク資産とともに大きく売られました。また、アメリカの信用低下が進み、米国債と共にドル安が進行。一時130円台まで円高が進行しました。これによって、4月上旬にはナフサ価格が520ドル/トン台の安値を付け、国産ナフサ価格の評価値も2025年3Qは5万円/KL台後半へと下落しました。3月下旬から比べるとナフサ価格は100ドル/トンも値下がりしたかたちとなります。その後米英間での交渉妥結や米中協議の進展を背景に反発し、足元は500ドル台後半を付けていますが、国産ナフサ価格は3Qにかけて7万円台から6万円台前半へと下落する見通しとなっています。
自動車産業への悪影響
米国は完成品としての自動車や自動車部品を多量に輸入しています。特に中国からの自動車部品、日本や韓国、メキシコからの自動車の輸入は顕著に大きく米国の貿易赤字に占める割合が大きい状況です。トランプ関税発動により、これらの輸出入が制限される可能性が意識され、自動車産業は需要が一時的に低迷するのではとの懸念が高まりました。そのため、合成ゴムやブタジエンといった石化製品相場が大幅に売り戻されました。合成ゴムはSBR(スチレンブタジエンゴム)が1600ドル/トンから1350ドル/トンへ、BR(ブタジエンゴム)が1580ドル/トンから1350ドル/トンへと、ブタジエンは1340ドル/トンから1000ドル/トンへと大幅に下落しています。米国の自動車メーカーは調達コストの上昇を背景に値上げを計画しており、需要に負の影響を与える懸念は長引きそうです。
中国向けのガス供給の変動
米中間の関税戦争は米国向けの輸出減少に伴う中国経済への影響がまず懸念されましたが、同時に中国側が米国に対して設定した報復関税による影響もありました。例えば、ポリプロピレンやプロピレンオキサイド、アクリル酸やフェノールの原料として多岐に渡って使用されるプロピレンの原料として使用されていたプロパンについて、中国は輸入量の約半分を米国に依存していました。また、エタンクラッカー向けの原料エタンについてはほぼ全量を米国に頼っていました。そのため、米国産のそれらの原料に対して125%もの関税が付されると、もはやマージンを得ることが不可能となります。これによって一時的に生産調整や原料の変更などの動きを余儀なくされました。
その後、エタンは対象外とされた他、関税も10%へと引き下げられたことから、供給網の混乱は免れつつありますが、米中間が設定した90日の猶予期間で交渉が妥結しなければ再び緊張が高まる可能性もあります。中国の石化メーカーはガス原料の米国依存を低下させるために今後代替調達に取り組むことが見込まれます。この問題は中国国内だけの話のように見えますが、中国の石化メーカーのコストが関税分増加することで、石化製品のアジア相場が相対的に引き上げられるといった副次的効果があります。
インバウンドの増加
中国から米国へのプラスチック輸出額は全輸出品目の中で第五位を占め、年間237億ドルにのぼります(参考:米中関税戦争、90日間の停戦へ 過剰生産是正・輸入拡大で合意探る - 日本経済新聞)。また、第四位は多くのプラスチックが使用される玩具となっており、米国の対中関税による石化産業へのインパクトは大きいと言えます。米中交渉の結果、中国からの輸入品は30%へと引き下げられましたが、汎用品の多いこのような業界において30%の関税は致命的と言えます。
中国のメーカーとしては関税が少しでも低い国で生産することへのインセンティブが引き上げられると見られ、その対象としては日本や韓国が挙げられるでしょう。合成樹脂がモノ余りとなる中、また中国の人件費も増加する中で、米国からの関税が相対的に低い極東アジアの国々へ生産をシフトする動きは増加しそうです。そうであれば日本の石化産業にとって、OEMの増加を通じてプラスに働くのではないでしょうか。
トランプ劇場に乗っかる方が吉か?
今回は、トランプ関税による石化産業への影響について見てきました。日本の石化産業にとっては需要の減速懸念が先行しますが、決して悪い話ばかりということでもないと思います。今後、関税の件も“トランプ劇場”の一幕として各国を騒がせることになりそうですが、それをうまく利用していく方が良いのかもしれません。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
