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MIで物性を予測する:化学業界・材料開発におけるAI応用(2)

2025.07.02

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この記事では...

MI(マテリアルズ・インフォマティクス)の識者が、化学業界や材料開発のAIやMIの適用例について解説! 今回は機械学習における材料物性データの取り扱いと、MIを用いた物性予測について説明する。

(執筆:入江 満/MI-6株式会社 取締役、miLab 編集長)⁠⁠⁠⁠

前回の記事では、特許文献からの化学情報抽出に焦点を当て、AIがどのようにして膨大な文献データから有用な情報を抽出し、材料開発を支援するかについて解説しました。これに続き、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)における物性予測、逆問題の解決、そして次世代実験計画について一連の流れとして掘り下げていきます。本記事では、MIを用いた物性予測について解説します。

 

機械学習と材料の表現方法

MIにおいて物性予測は、「この構造・組成なら、このような特性を示すはずだ」という関係性をデータから学び、数値モデルとして定式化するプロセスです。従来であれば、こうした物性評価には試作・評価や第一原理計算といったコストの高いプロセスが必要でした。機械学習を用いれば、それらを補完・代替するかたちで、デジタル空間上で高速なスクリーニングや予測が可能になります。

機械学習の特徴として、まずお伝えしておきたい点があります。それは、いかに高度なアルゴリズムを用いても、入力データが不適切であれば予測はうまくいかないということです。これは「Garbage in, garbage out」という、あらゆるデータ駆動型手法に共通する原則です。

現場の肌感覚とも合致するでしょう。実験やシミュレーションにおいて、本来は制御すべきパラメータを制御できていなければ(たとえば材料の性質を正確に把握しないまま実験設定を行えば)、得られる結果は信頼できるものにはなりません。同様に、機械学習における予測モデルの精度は、入力変数の表現方法=「材料をどう数値的に表すか」に根本的に依存します。

そこで次に、MIにおける材料の入力設計、すなわち記述子の考え方について整理していきます。

 

材料の数値化を行う「記述子」

記述子とは、材料の構造・組成・性質を数値ベクトルとして表現したものであり、機械学習モデルが扱える形式に変換するための「翻訳」の役割を果たします。記述子の設計は、データとモデルをつなぐもっとも重要な橋渡しの役割を担っており、その品質が物性予測モデルの性能を大きく左右します。

記述子の分類には様々な観点がありますが、ここでは大きく以下の3層に分類します。

(1)組成・構造系記述子

 例:SMILES
文字列(分子の表現方法)、Morgan Fingerprint(分子構造の表現方法)、組成特徴量、原子団寄与法(構造から簡易的に物性計算する方法)など

  • 特徴:分子や結晶構造を手軽に表現でき、高速な計算が可能
  • 限界:構造自体には含まれない外的要因(温度、場依存性、時間変化など)は捉えにくい

(2)シミュレーション系記述子

例1:DFT 由来
⁠HOMO–LUMO ギャップ、双極子モーメント、静電ポテンシャル分布など

例2:MD/FEM
由来):凝集エネルギー、拡散係数、弾性率、界面自由エネルギーなど

  • 特徴:物理法則に基づく計算により、構造の背後にある特性を表現可能
  • 限界:計算コストが高く、また計算の設定にも高い知識が必要

(3)計測・実験系記述子

例:XRD の d 間隔、FT-IR スペクトルのピーク比、DMA(Dynamic
Mechanical Analysis)による粘弾性パラメータなど

  • 特徴:実物質の総合的な応答を反映。現実に即した視点でモデル構築が可能
  • 限界:測定条件に依存し、また特徴抽出にも専門技術を要する

このように、同じ材料でも、その記述子(表現方法)は多様です。「何でも試す」という姿勢では、ときに選択肢が多くなりすぎます。記述子の取得コストと性質を鑑みて、目的とする性能に関わるものを選択する必要があります。同じ材料だからといって、いつも同じ記述子を使うというのも誤りです。なぜならば、同じ材料系でも、対象物性が異なれば適切な記述子は変わるからです。

例えばポリプロピレンについて、Tg を予測したい場合と、応力下での亀裂進展挙動を予測したい場合とでは、有効な記述子は大きく異なります。前者は主鎖の自由度やガラス状態の情報(例:モノマー構造、密度、柔軟性指標)が重要ですが、後者では結晶粒サイズや界面エネルギー、引張試験由来の応力-ひずみ曲線特徴量など、メソスケールの構造・力学応答が効いてくるでしょう。

このように、材料表現のスケールと予測したい現象のスケールを一致させることが、MI における記述子設計の鍵となります。もっとも、これはMIに限らず、材料開発全般において本質的な視点だと言えるでしょう。

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記述子の解説記事(miLab)

データの関係性を学び、汎化する機械学習モデル

材料を数値的に表現する「記述子」が整えば、次に行うべきは、それと目的変数(予測したい物性)との関係性を学習するプロセスです。これが機械学習によるモデル化です。モデルは「どのような特徴が物性に影響を与えているか」を捉えるレンズでもあります。

1.モデル構築の基本構成

1.1 説明変数と目的変数

  • 説明変数 X:実験条件や、記述子によって数値化された材料情報
  • 目的変数 y:予測したい物性
  •  目標:y ≒f(X) となる関数 f をデータから学習する

 

1.2 データ分割と評価

構築したモデルが未知のデータに対してどの程度有効か(=汎化性能)を評価するため、学習用と検証用のデータを分けます。また、MAE(Mean Absolute Error)、RMSE(Root Mean Squared Error)、R^2(決定係数)といった指標を用いて評価します。

実務上は、平均的な精度だけでなく「最大誤差が設計要件を超えていないか」「外れ値が発生しやすい領域はどこか」なども重要な判断材料になります。

>>もっと知りたい方へ
性能評価の記事(miLab)

2.代表的なモデルのタイプ

モデル化のフェーズでは、「どのアルゴリズムを使えば最も良い予測ができるのか?」という問いがよく立ち上がります。万能な最強モデルは存在しないという点はおさえておきたいです。

これは、機械学習の定説である「ノーフリーランチ定理」でも説明されています。「すべての問題に対して常に最良の性能を示すアルゴリズムは存在せず、あるタスクに適した手法は、他のタスクではかえって性能が悪化する」というものです。要するに、問題の構造や目的に応じて、モデルは使い分ける必要があるのです。

その一方で、現場では「とりあえず一通り試してみよう」と複数の手法を手当たり次第に試すアプローチも散見されます。しかし、こうした無計画なアルゴリズム比較は、実は最も時間効率の悪い道になりがちです。限られたリソースの中で成果を出すためには、次のような考慮すべき要素があります。

  • データ構造(例:線形性があるか?構造情報が重要か?)
  • モデルの特性(例:解釈性が必要か?予測性能重視か?)
  • 利用フェーズ(例:予測か探索か?設計か説明か?)
  • コスト(例:雑でもすぐに結果がほしいか?時間かけてでも正確さを重視するか?)

モデル選定とは、「性能比較」だけではなく、「目的との整合性」を軸にした設計判断ともいえます。

以下では、材料開発の実務でよく用いられる代表的なモデルタイプを簡単に紹介します。

2.1 線形モデル(OLS, Lasso,Ridgeなど)

非専門家でも解釈しやすく、影響の大きい特徴量の定量評価に有効です。一方で線形性仮定があるため、複雑な現象には不向きです。

2.2 カーネル系(Support Vector,Gaussian Processなど)

非線形性を柔軟に扱え、少数データ下でも高い性能を発揮します。 またガウス過程(GP)は予測値だけでなく不確かさ(予測分布)も同時に得られるため、実験計画やデータ獲得戦略における相性が良いです。ただし、計算コストが高く、また数値的安定性に注意が必要です。

2.3 決定木系(Random Forest, Gradient Boostingなど)

非線形性・相互作用を扱いやすく、特徴量重要度の可視化も行いやすいです。 表データに対しては一般的に高い実用性能を示します。

2.4 ニューラルネットワーク(DNN, CNNなど)

高次の非線形性を学習可能です。特に大規模・多変量データに強いことが特色です。一方、過学習に注意が必要で、十分なデータ量と正則化が必須です。

2.5 グラフニューラルネットワーク(GNN)

グラフ構造が原子・結合の自然な表現形式に一致し、近傍の構造・化学環境を集約しやすいという利点があります。化学構造や結晶構造のような局所相互作用を捉えるモデリングに適します。

物性予測と要因分析(ケース)

次回の記事では次世代型の実験計画を扱いますので、その布石として「ガウス過程」というモデルを強調しています。テクニカルには、それ以外のモデルでも実験計画を行うことができますが、それも含めて次の記事でお話しようと思います。

今回の記事の最後に、物性予測と要因分析を組み合わせた事例として、ひとつ興味深い研究を紹介します。Scientific Reports(2025)に掲載された研究では、廃ポリプロピレン(PP)繊維を活用したエコブロックの圧縮強度を予測するために、機械学習モデルが用いられました。

研究の背景には、環境負荷の高い廃プラスチックを建材として再利用し、持続可能な材料設計を推進するという大きな目的があります。その中で、実験データに基づいて高精度な圧縮強度予測モデルを構築し、今後の配合設計に活かすことが、本研究におけるMI活用の目的でした。


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図:PP繊維を用いたエコブロック 出所:Yadav et al., Sci. Rep., 15, 8689 (2025), CC BY 4.0

結果として、構築されたモデルは高い予測精度を示し、過去のデータをもとに新たな材料配合の強度を精度高く見積もることが可能となりました。加えて、特徴量の寄与を可視化する手法により、各変数が圧縮強度に与える影響を定量的に評価。例えば、「PP繊維の含有量が約27%のときに圧縮強度が最大となる」といった、配合設計に直結する定量的知見が得られました。これは従来の経験則では得にくい、データ駆動ならではの成果です。

なお、本研究ではいわゆる「材料記述子」は使用していません。配合比率や養生条件といった実験条件そのものを説明変数とすることで、圧縮強度の予測と要因分析を行っています。このように、シンプルな配合・加工条件最適化の問題においては、記述子を用いなくとも十分な予測性能を発揮出来るケースもあります。

一方で、もし仮に本研究で使用する「廃ポリプロピレン繊維」に複数の候補材料(例えば起源や構造の異なるPP繊維)が存在していた場合には、それらを比較・評価するために、繊維そのものの構造・物性に基づく記述子情報が必要になるでしょう。「何を固定し、何を探索するか」によって、必要となる記述子の種類も変わるということです。

予測モデルを用いた材料探索・実験計画へ


とはいえ、予測モデルがいくら高精度であったとしても、それだけで良い材料が手に入るわけではありません。予測はあくまで道しるべであり、現実には試作と実験を重ねるプロセスが不可欠です。そしてその試行を、どう最小限で成功につなげるか。そこにこそ、次なるテーマである「実験計画」の重要性があります。

次の記事では、機械学習を用いた次世代型の実験計画について説明していきます。

【関連資料】



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>>>>連載「化学業界・材料開発におけるAI・MI活用ガイド」一覧


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プロフィール

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⁠⁠⁠入江 満(いりえ・みつる)
⁠⁠MI-6株式会社 取締役 / miLab 編集長東京工業大学・大学院(現:Science Tokyo)においてバイオインフォマティクスを専攻。政策コンサルティング会社、ITベンチャーを経て、当社共同創業。MIを基軸にした解析サービスおよびプロダクトの開発を牽引。現在は事業・プロダクト・R&Dの責任者として執行全般を統括。

⁠■MI-6による研究開発DX/MIメディア「miLab
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