国産ナフサ価格と為替の関係について解説。今回は、為替の変動がどのように国産ナフサ価格に影響するのかを整理していきます。
国産ナフサ価格に為替の変動は影響するか:石油化学市場レポ
2025.09.17
この記事では...
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
前回はトランプ関税による国内石化産業への影響について解説しました。今回からは国産ナフサ価格と為替の関係について、2回の記事で見ていきたいと思います。第1回となる今回は、為替の変動がどのように国産ナフサ価格に影響するのかを整理していきます。
国産ナフサ価格の仕組み
国産ナフサ価格とは、日本の輸入平均単価に、タンク保管やパイプラインにかかる費用など荷揚げ・保管に要する手数料2000円/klを上乗せした価格です。この輸入平均単価( 「MOF価格」と呼ばれます)は、財務省(Ministry of Finance)が毎月末に発表する貿易統計から算出されています。算出の内訳は、輸入金額(円)÷輸入数量(kl)で、国内の輸入の合計金額と合計数量のみから得られますが、実際の輸入時には円建てではなくドル建てが使われているため、為替の動きがMOF価格に直結する仕組みです。
では、具体的にMOF価格について見ていきましょう。MOF価格として公表されるのは、1キロリットル当たりの円建てナフサ価格のみです。従って、輸入時のドル単価を把握するには、通関為替で割り戻す必要があります。この際に使用する通関為替のレートは、財務省が週単位で公表している通関為替を月の日数で案分計算した理論為替になります。通関為替は輸入申告の日の属する週の前々週の、実勢外国為替相場の当該週間の平均値を用いて決まります。そのため、実レートとのギャップを生みやすい側面もあります。例えば、7月下旬に為替が急速に円安へ振れても、8月に適用される通関為替は7月中旬の水準で据え置かれます。結果として、実レートの変化が国内の価格表や仕切りに反映されるまでに自然とタイムラグが生じ、現場では「為替の影響が数週間遅れてやって来る」と体感することになります。
為替の影響と感応度
為替の「効き方」は単一の月次レートで一気に決まるわけではありません。複数のロットが時差を伴って通関されるため、月内で適用される通関為替や評価日の想定が加重平均のかたちで積み上がります。現実的に、いつ・どの程度の数量が通関されたのかはブラックボックスとなっているため、図1に示した構成はあくまで理論的なものです。実際には輸入船が毎週同量で入港することはほとんどなく、このような為替の理論的な構造に過ぎません。このような構造を「為替イールド」と呼びます。

図1:為替イールドのイメージ
この例の為替イールドとしては、
「1カ月前」→「半月前」→「当月前半」→「当月後半」→「半月先」
と、半月ごとに15%前後の重みを順次配分し、残余を当月の実勢に寄せる近似で表しています。
為替の感応度そのものは、ドル建てのナフサ価格にほぼ比例します。参考として、2025年8月の輸入ナフサ価格の月間平均を580.21ドル/トンと仮定すると、為替が1円動くたびに理論上の円建てコストは約5万8021円/トン動く計算になります。四捨五入すると、147円/ドルなら約8万5291円/トン、150円/ドルなら約8万7032円/トンとなり、3円の円安で差は約1741円/トンに広がります。このように、1円の為替差でMOF価格、ひいては国産ナフサ価格にどの程度の影響が出るのかという感応度を、しっかり認識しておくことが重要でしょう。
為替市場の動向とナフサ価格への波及
背景となる為替マーケットの動きも押さえておきましょう。2025年8月には一時、1ドル=147円30銭近辺までドル安・円高が進み、為替は日中で大きく振れました。為替の急変は輸入物価全般に波及しますが、とりわけ石化産業の基礎原料であるナフサは、価格の計算式に為替が直に入るため影響が見えやすい素材です。
最後に、国産ナフサ価格は為替だけでなく、物流と取引の時間軸も価格に影響します。ナフサの調達は、船積みから荷揚げ・通関に至るまで航海日数だけで20日前後を要し、発注自体は到着の30~45日前に行うのが一般的です。つまり、価格が確定する前に、決済や評価の前提となる為替・指標が動き得る構造になっています。通関為替が半月固定であることと物理的なリードタイムが重なると、期中の為替や国際ナフサ指標の振れが、評価価格と実際の取得コストの間の差が生じるため、実際にナフサを調達している企業では、為替イールドに基づいた為替ヘッジを行っていることが多いです。
足元の状況と今後

図2:2025年の為替相場とナフサ価格
こうした前提の上で足元を眺めると、2025年に入ってドル/円は1月の高値158円台から4月の安値140円台を経て、7~8月には再び147円台後半から150円近辺へと振幅しながら推移しており、150円台と147円台の往来が典型的なレンジ帯となっています。この動きは、米国の利下げ観測や日本の金融政策期待が交錯した市場心理を反映しています。
為替と原油という2つの変数の組み合わせ次第では、円建てナフサ価格の振幅は似たトレンドでも大きく変わり得ます。従って、日々の実勢為替・原油・ナフサ指標の観測に加え、半月固定で適用される通関為替のロジックを意識しておくことが重要です。
次回は、2025年の年末に向けて為替マーケットの動きがどのように変化し得るか、想定シナリオを検討します。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
