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水野の射出成形実験ノート「この材料打ってみたら、こうなった」(出光SPS編)【前編】

2025.10.29

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本記事では…

かつて工業試験場で高分子材料の研究にかかわっていた筆者が、実際に流通している商用のエンジニアリングプラスチックの射出成形を実際に体験してみた(前編)

(執筆:水野 渡/合同会社水野商会)


⁠かつて工業試験場で高分子材料の研究にかかわっていた水野が、実際に流通している商用のエンジニアリングプラスチックの射出成形を実際に体験してみる本企画。初回は、出光興産株式会社のSPS樹脂を試しました。前編・後編にかけて、射出成形の過程を詳しく解説していきます。

1. はじめに⁠

⁠出光興産のSPSはシンジオタクチックポリスチレン(Syndiotactic Polystyrene)の略称で、高結晶性ポリスチレンとして1985年にメタロセン触媒を用いて世界で初めて合成に成功し、1997年に「XAREC™」のブランド名で商業化されたエンジニアリングプラスチックです。

⁠この樹脂は、高い融点と優れた耐熱性、さらには耐薬品性や電気特性に優れるエンジニアリングプラスチックとして、幅広い産業分野で採用されています。現在では、自動車や電子機器、化学プラント向け部品から精密フィルムまで、多岐にわたる用途展開が進んでいます。自動車分野では、エンジンルーム内の温度が150℃を超えるような過酷環境下でも寸法安定性と機械的強度を保つことから、ヒートシールドやブローバイガスの配管部品、センサー周辺のハウジング、インジェクションポンプの内部部品などに採用されています。

電子・通信機器分野では、低誘電率・低誘電正接という優れた電気特性を生かして高周波回路用基板やコネクタハウジング、アンテナ部品に広く利用されています。5G関連機器や車載通信モジュールなどの最先端用途での採用事例が増えています。家電・産業機械向けには、給湯器や空調機のバルブ部品、継手、高級炊飯器内部部品、洗燥機部品、コーヒーメーカー部品などへの用途が広がっています。

⁠出光興産では原料調達から重合、ペレット化、さらに各種グレードの開発・評価までを一貫して社内で行うことで、用途ごとに最適化された物性を持つSPSを提供しています。これにより成形性、機械特性、電気特性、耐薬品性など多様な要求に応じた材料選択が可能となり、最先端製品の性能向上と量産安定性を両立できるのが大きな強みです。

>>⁠SPSについて詳しく知りたい方はこちら

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図1 SPS(シンジオタクチックポリスチレン)のイメージ
⁠(出所:出光興産



⁠2. SPSの特性⁠

一般的なポリスチレンにはないシンジオタクチック構造により高い結晶性を持ち、ガラス転移温度は約100℃、融点は約270℃です。融点が高いことから、連続使用温度も130℃になります。さらに、結晶構造が水分の侵入を防ぐため乾燥時で約0.03%以下の非常に低い吸水率を示し、耐薬品性にも優れており、酸・アルカリ・有機溶剤など幅広い化学物質に対して高い耐性を持ちます。電気特性は低誘電率・低誘電正接という特性を持ちます。機械的特性としては、剛性と寸法安定性に優れており、比重が約1.01と軽量であることから、軽量化が求められる製品にも適しています。

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表1 SPS(シンジオタクチックポリスチレン)の特性



3. SPSの射出成形条件

⁠⁠出光興産でこの材料のご担当の森川様から成形加工に関する技術資料をいただきました。この材料の特性を生かした射出成形を行う場合には、いくつかの注意点があるそうです。

まず①ペレットの予備乾燥温度は、比較的高めで、空気循環式乾燥機,真空乾燥機,ホッパードライヤーで 120℃×3hr以上、短時間で使用したい場合には150℃×2hr程度の乾燥が必要です。SPSの乾燥時の吸水率は約0.03%以下ですが、GF強化などのグレードでは成形品の品質安定上十分な乾燥が必要です。

ペレットの室内での吸水率は24時間で0.02%程度で、水分があるとガス発生につながるそうです。放置をせずに乾燥後直ちに使用するように成形サイクルを調整します。

また、この予備乾燥は、水分やガス成分の除去と共に、ペレットの結晶性を均一にして成形機内での溶融特性や流動性を安定化する(成形品品質を安定させる)効果があるそうなので必ず行います。

②成形温度は、シリンダー温度が280~300℃の範囲になります(標準290℃、最高310℃、熱分解温度 320℃)。金型温度は、十分な耐熱性と表面光沢を得るためには135~150℃の表面温度が必要です。温調方法は、安定させやすい油温調が良いそうです。

③射出圧力・速度は、溶融粘度が低く、低圧成形が可能なことからオーバーパックによる不良が発生し易いのでショートショット状態になる充填条件から開始すると確実です。

⁠>>成形に関する詳しい条件について

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表2 SPS(シンジオタクチックポリスチレン)の射出成形条件



4. 一般グレードと難燃グレードを準備


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今回は実際に水野が成形した内容を報告します。水野はSPSの成形が初めてなのでほんのさわりですが、この材料を成形しておられる方や検討されておられる方の参考になればありがたいです。

⁠今回は、XAREC™️(SPS)の一般グレード(S136、 ガラス繊維含有量30%)と難燃グレード(S931、 ガラス繊維含有量30%)の2つの材料を準備しました。

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図2 材料(XAREC™️ 左:S931、右:S136)

今回は、除湿乾燥機で150℃の温度で乾燥して使用しました。

⁠今回使用する射出成形機は、TOYOイノベックス株式会社(旧東洋機械金属株式会社)の成形イノベーションセンターにお邪魔してSi-100-7 / F200F φ28を使わせていただきました(図3)。この機械は、型締力:980kN、スクリュー径:28mmです(TOYOイノベックス)。

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図3  射出成形機(Si-100-7 / F200F φ28)

さらに、2023年に一般社団法人プラスチック成形加工学会の「青木 固」技術賞を受賞した加熱筒内真空脱気システム「SAGスクリュー/SAG+αⅡ」が付属しています。(図4

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図4 使用したスクリュー(上:SAGスクリュー 下:一般スクリュー)

TOYOイノベックスの青山さんによれば、このシステムは、稼働させると1/20気圧ほどの真空下で成形でき、可塑化中の過剰なせん断発熱を抑えてガスの発生を抑制するSAGスクリューと、可塑化中に発生するガスを脱気するSAG+αⅡから構成されています。ガスが起因となる成形中の不具合を抑え、歩留まりを改善するそうです。

また、今回は以下のシステムも使用させていただきました(図5)。

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図5 (左から)脱気システム(SAG+αⅡ)、脱気システム(真空ポンプ)、乾燥機(株式会社松井製作所 MJ6-i-G3-30、除湿熱風乾燥機)

XAREC™️のグレードごとの物性は、表3にまとまっています。

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表3  XAREC™️(SPS)のグレード(出所出光興産



5. 一般グレードを打ってみたら「大丈夫だった」


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図6 操作パネル(基本条件)

⁠一般グレード(XAREC™️(SPS)(S136))を、基本条件として、スクリュー条件:SAG、シリンダー温度:290℃、金型温度:140℃、射出速度: 100mm/sで、背圧:7MPa、計量回転:80rpm、平板金型:60×60×t 2mmを成形してみました。金型は油温調で、設定が160℃の時、キャビティ表面温度が149℃になっていました(金型が高温なので、設定値と実測値に随分温度差がでました。表面温度計による測定は必須です)。

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図7 表面温度計



⁠その結果は、外観良好な成形品が得られました。乾燥なしのペレットや標準スクリューの他、射出速度:30mm/s、シリンダー温度:330℃、背圧:2MPa、計量回転:160rpmなどに変えて打ってみましたが外観不良は起きませんでした。

今回の材料は成形性を改良したグレードだそうで良好な成形性が確保されているようです。後から、TOYOイノベックスで大きな平板(100×100×t4mm)を成形していただきましたが、成形条件が変わっても問題はありませんでした(図8)。

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図8  (左)一般グレード成形品の外観写真(基本条件)、(右)一般グレード成形品の外観写真(100×100×t4mm)


⁠また、成形品の光沢ですが、金型から取り出した直後に比べてしばらくすると微妙に減少するようです。これは、金型の中で150℃まで冷却された成形品が取り出し後、さらにTgの100℃まで冷却する際に結晶化が進むことで成形品表面の状態が変わるからだそうです。シリンダー温度や保圧を高くするとある程度改善するかもしれませんが、バリ注意です。


⁠⁠ここまで、一般グレードについては比較的すんなり打てたといったところですが、難燃グレードについては少しだけ注意が必要そうです。後編では、難燃グレードの射出成形の結果を中心に説明します。(次回へ続く)


プロフィール

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水野 渡(みずの・わたる)
2024年 合同会社水野商会 代表社員、プラスチック成形(射出成形作業)1級技能士。
⁠富山県下新川郡入善町下山(にざやま)出身。1987年に富山大学理学部を卒業後、富山県庁も入庁し、富山県工業技術センター(現:富山県産業技術研究開発センター)で、プラスチック関連技術の研究などに従事。

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