かつて工業試験場で高分子材料の研究にかかわっていた筆者が、実際に流通している商用のエンジニアリングプラスチックの射出成形を実際に体験してみた(後編)
水野の射出成形実験ノート「この材料打ってみたら、こうなった」(出光SPS編)【後編】
2025.11.05
本記事では…
(執筆:水野 渡/合同会社水野商会)
かつて工業試験場で高分子材料の研究にかかわっていた水野が、実際に流通している商用のエンジニアリングプラスチックの射出成形を実際に体験してみる本企画。初回は、出光興産株式会社のSPS樹脂を試しました。
前編では実験の準備と一般グレードの成形まで説明しました。後編では、難燃グレードの成形にチャレンジした過程について解説します。
6. 難燃グレードを打ってみた「少し注意」
次に難燃グレード(XAREC™️(SPS)(S931))を平板金型で打ってみました。このグレードは、UL94 V-0の難燃性で難燃剤が配合されているのでその分成形条件はシビアになりそうです。
まず、一般グレードと同様の基本条件で成形しました。この条件では、平板の中央部分にスプルから樹脂が流れ込んだような扇形の光沢不良(シルバー、もしくはフローラインか)が見られます(図9)。

図9 (左)難燃グレード成形品の外観写真(基本条件)、(右)光沢不良の流れ
このため、SAG+αⅡを使用させていただき真空機構による脱ガスを行いました。しかし、状況は変わりません。
そこで、これまでは1速2圧の成形だったのですが、成形の樹脂の初期流入時のスプルからタブ→フィルムゲートまでを低速(5mm/s)で行いその後必要な速度(100mm/s)で行うように条件を変更しました。ショートショット(図10)で確認すると、この条件ではタブが樹脂で満たされてから平行流で樹脂がキャビティに流れ込むようになります。こうすることで、扇形の光沢不良はほぼ見られなくなりました。

図10 ショートショット(ゲートでの樹脂の流入を調整した新しい条件)

図11 操作パネル(新しい条件)
このことからすると、このグレードは比較的ガラス繊維が浮きやすいことや空気を巻き込みやすい性質があるのかもしれません。成形時の樹脂のフローフロントが安定するような(平行流になるような)成形条件や金型条件を見つける必要があるようです。また成形品の光沢は一般グレードに比べてわずかに曇っているようです(図12)。

図12 (左)難燃グレード成形品の外観写真(条件を変更したもの)、(右)難燃グレード成形品の外観写真(100×100×t4mm)
このグレードは熱分解によるガス発生の傾向があるそうなので、試しにシリンダー温度を樹脂の熱分解温度以上の330℃に上げて成形しました。一般グレードでは変化が見られなかったのですが、このグレードでは全体が白くくすんだように見えました。さらに、標準スクリューに変更するとこの傾向はより明確になりました。
やはり、SAGスクリューや真空装置は熱分解とガス発生に効果がありました。精密成形で樹脂の流動を確保するためシリンダー温度を高くすることが想定されるときは、SAGスクリューや加熱筒内真空脱気システムは効果がありそうです。
7. 一般グレードと難燃グレードを比較すると
材料選択の際にこれらのグレードを直接比較することはないと思いますが、製品の都合でグレードを変更することを考えると少し注意点がありそうです。
一般グレードは成形条件範囲が広いのですが、難燃グレードは熱分解ガスの発生や流動時のガスの巻き込みが比較的起きやすいようです。CAEで流動解析や冷却解析を行うと事前に確認できるのではないでしょうか。
また、問題が想定されるときは、加熱筒内真空脱気システムや真空金型の採用が検討されます。
8. 加熱筒内真空脱気システム(SAGスクリュー/SAG+αⅡ)を実感した
今回、TOYOイノベックス株式会社の加熱筒内真空脱気システム(SAGスクリュー/SAG+αⅡ)を試す機会をいただけました(スクリュー交換などはやっていただきました。ありがとうございました)。難燃グレードの成形で実感することができたのですが、このシステムのスクリューは可塑化時のせん断発熱による材料の分解やガス発生に効果がありました。
真空装置の効果を直接見ることはできなかったのですが、シリンダー内の真空が高まってくると、図13にあるように射出に必要な射出圧力が高くなる様子が見られました。

図13 真空の状態と射出圧力の変化(重ね書き)
TOYOイノベックスの池田さんによると、「この現象は、真空になるとペレットがシリンダー内で溶融するときに巻き込まれる空気がなくなるため、溶融樹脂の見掛け密度が上がり、その分樹脂の流動抵抗も増加するため」とのことでした。
空気の巻き込みによる密度変化がなくなるのですから、成形品の品質向上に効果がありそうです。
9. 謝辞
今回、これからますます活用の場が広がるだろうSPSを感じようと思い企画しました。また、加熱筒内真空脱気システムのさわりを実感することができました。今回の記事を通じて、読者の皆さまにも、その実感が少しでも伝わっていたらうれしいです。
材料を提供していただいた出光興産 森川様、射出成形をさせていただいたTOYOイノベックス 青山様、井上様、池田様、松尾様、その他協力いただいた皆さま、ありがとうございました。
<実験協力>
出光興産株式会社
└SPS特設サイト
TOYOイノベックス株式会社
└製品情報
プロフィール

2024年 合同会社水野商会 代表社員、プラスチック成形(射出成形作業)1級技能士。
富山県下新川郡入善町下山(にざやま)出身。1987年に富山大学理学部を卒業後、富山県庁も入庁し、富山県工業技術センター(現:富山県産業技術研究開発センター)で、プラスチック関連技術の研究などに従事。

PlaBase編集部
PlaBase[プラベース]これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。
