JIS製図の幾何公差について一から解説。最小実体サイズの見直しをテーマに説明をします。
最小実体サイズの見直し:機械製図道場(中級編17)
2026.05.11
この記事では…
(執筆:土橋美博/スワニーCIO、3D CAD推進者)
前回は、「最大実体公差方式」について説明しました。今回は、その続きとして、今回は「最小実体サイズの見直し」について解説します。
まず、最小実体サイズ(LMS)を確認します。最小実体サイズとは、部品の材料が最も少ない状態を示します。
穴の場合は、穴径が最大の状態です。穴が大きくなるほど、周囲に残る材料は少なくなります。一方、軸の場合は、軸径が最小の状態です。軸が細くなるほど、材料は少なくなります。したがって、穴では最大径、軸では最小径が、それぞれ最小実体サイズとなります。
前回の図6では、穴と軸が最小実体サイズの状態で、穴の中心間距離が最大、軸の中心間距離が最小となる場合を確認しました。
このとき、穴の外側最大サイズは、
20.1mm+12.2mm=32.3mm
となります。
一方、軸の外側最大サイズは、
19.9mm+11.8mm=31.7mm
となります。
従って、穴と軸の外側最大位置の差は、
32.3mm-31.7mm=0.6mm
です。
これは、全体で0.6mm、片側あたり0.3mmのガタがある状態を示しています。この状態であれば、軸は穴に“はまる”ことができます(図1)。

図1 穴と軸の状態
ここで注目したいのは、このガタをすべて残しておく必要があるのか、という点です。はめ合いに必要な最低限の隙間を確保できるのであれば、その一部を位置ずれの許容範囲として使うことができます。
そこで、穴と軸の中心間距離をそれぞれ0.15mmずつ見直して考えます。
穴の中心間距離を19.95mmとすると、
19.95mm+12.2mm=32.15mm
となります。
軸の中心間距離を20.05mmとすると、
20.05mm+11.8mm=31.85mm
となります。
このとき、穴と軸の外側最大位置の差は、
32.15mm-31.85mm=0.30mm
となります。
前回は0.60mmあったガタが、見直し後は0.30mmになります。つまり、0.60mmの余裕のうち、0.30mmを位置ずれの許容として使い、残り0.30mmをはめ合いの隙間として残したことになります。
このように、最小実体状態では組立上の余裕が増えることが分かります。最大実体公差方式では、このようなサイズ変化によって生じる余裕を踏まえながら、機能を満たす範囲で位置度公差を設定します。
この考え方を公差設計に反映するのが、最大実体公差方式です。最大実体公差方式では、穴と軸の隙間が最も小さくなる最大実体状態を基準にして、はめ合いが成立することを確認します。
そのうえで、穴が大きくなったり、軸が小さくなったりして隙間が増えた場合には、その分だけ位置度公差を広げて考えることができます。
つまり、最大実体公差方式は、公差を単に無条件に緩和する方法ではありません。はめ合い機能を守りながら、サイズの変化によって生じる余裕を、位置度公差として合理的に使う方法です。
今回の例では、最小実体状態で確認できた0.60mmのガタのうち、0.30mmを位置ずれの許容として使いました。結果だけを見ると、位置度公差は緩和されたように見えます。
しかし、これは機能を無視して公差を緩めたものではありません。最小実体サイズで生じる余裕を確認し、はめ合いに必要な隙間を残した上で、その一部を位置度公差に反映したものです。
したがって、今回の見直しは、単に公差を甘くしたものではなく、機能を満たす範囲で位置度公差を合理的に緩和したものと考えました。
さて次回は、「動的公差線図」についてお話します。
土橋 美博(どばし・よしひろ)
3D CAD推進者。1964年生まれ。25年間、半導体組み立て関連装置企業でメカ設計・営業・3D CAD推進に従事。2014年にフラットパネルディスプレイ製造装置を主に開発設計製造を行う企業に入社。これまでの3次元CADの経験を活かした現場発信のデジタルプロセスエンジニアリング推進活動を行いながら、CAEも担当。長野県南信工科短期大学校で非常勤講師として機械設計製図の教育も行っている。
