JIS製図の幾何公差について一から解説。今回は、サイズ公差と幾何公差の関係について表す動的公差線図について解説します。
動的公差線図の見かた:機械製図道場(中級編18)
2026.06.03
この記事では…
(執筆:土橋美博/スワニーCIO、3D CAD推進者)
前回は、最小実体サイズで生じる「ガタ」を確認し、その一部を位置度公差として活用する考え方について解説しました。今回は、この関係をさらに分かりやすく整理するために、「動的公差線図」について解説します。
動的公差線図とは、サイズの変化に応じて、許容できる位置度公差がどのように変化するかを示した図です。
通常、寸法公差だけを見ると、穴径や軸径の許容範囲だけを確認しがちです。しかし、はめ合い部品では、サイズだけでなく、穴や軸の位置ずれも同時に考える必要があります。例えば、穴が小さく、軸が大きい場合は、穴と軸の隙間が少なくなります。この状態では、位置ずれを大きく許容すると、軸が穴にはまらなくなる可能性があります。一方、穴が大きく、軸が小さい場合は、穴と軸の隙間が大きくなります。この状態では、多少の位置ずれがあっても、はめ合いは成立しやすくなります。つまり、許容できる位置度公差は、サイズによって変化します。
この関係を図で表したものが、動的公差線図(図1)です。

図1 動的公差線図
図1の見方
中央の12.0 は、穴と軸がはめ合うときの基準となる寸法です。
ここでは、最大実体実効サイズ、つまり最も厳しいはめ合い条件を示しています。
右側は穴の寸法です。
- 12.1:穴の最大実体寸法(MMS)
- 12.2:穴の最小実体サイズ(LMS)
穴は小さいほど材料が多くなるため、12.1が最大実体寸法になります。
一方、穴が大きくなると材料が少なくなるため、12.2が最小実体サイズになります。
左側は軸の寸法です。
- 11.9:軸の最大実体寸法(MMS)
- 11.8:軸の最小実体サイズ(LMS)
軸は太いほど材料が多くなるため、11.9が最大実体寸法になります。
一方、軸が細くなると材料が少なくなるため、11.8が最小実体サイズになります。
中央のV字線の意味
青いV字線は、サイズの変化によって、許容できる位置度がどのように変わるかを示しています。
中央の12.0では、位置度の余裕はありません。
ここは、穴と軸が最も厳しくはまり合う条件です。
そこから、
- 穴が12.1から12.2へ大きくなる
- 軸が11.9から11.8へ細くなる
と、はめ合いの隙間が増えます。
この増えた隙間を、位置度公差に加えることができます。
これが、図中の拡大公差域です。
緑色と赤色の意味
図の下側にある緑色の範囲は、もともと図面で指示されている位置度公差です。
位置度公差による公差域 0.1[mm]
これは、サイズに関係なく、基本として与えられている位置度公差です。
一方、赤色の矢印で示されている部分は、サイズが最大実体寸法から離れたことによって追加される公差域です。
拡大公差域
0.1[mm]
つまり、実際の穴径や軸径に余裕がある場合には、図面指示の位置度公差0.1[mm]に加えて、さらに0.1[mm]分の余裕を使えることを示しています。
赤枠内の 0.2 の意味
中央上の赤枠では、
④ 0.1
④+⑤ 0.2
と示されています。
これは、最終的に許容できる位置度公差が、
図面で指示された位置度公差 0.1mm+ サイズ変化による拡大公差域 0.1mm
= 許容位置度 0.2mm
になることを示しています。
つまり、最大実体状態では位置度公差は0.1mmですが、穴や軸の実サイズに余裕がある場合には、位置度公差を0.2mmまで広げて考えることができます。
この図の重要な点は、位置度公差は常に固定値で見るのではなく、実際のサイズとの関係で変化して考えるということです。
穴が大きくなる、または軸が細くなると、はめ合いには余裕が生まれます。
その余裕を、位置のずれとして使えるようにしたものが、最大実体公差方式です。
従って、この図は、
「最大実体寸法を基準にし、実サイズが最小実体サイズに近づくほど、位置度公差として使える範囲が広がる」
ということを示しています。(次回へ続く)
土橋 美博(どばし・よしひろ)
3D CAD推進者。1964年生まれ。25年間、半導体組み立て関連装置企業でメカ設計・営業・3D CAD推進に従事。2014年にフラットパネルディスプレイ製造装置を主に開発設計製造を行う企業に入社。これまでの3次元CADの経験を活かした現場発信のデジタルプロセスエンジニアリング推進活動を行いながら、CAEも担当。長野県南信工科短期大学校で非常勤講師として機械設計製図の教育も行っている。
