「ベテランであっても陥りやすい落とし穴」をテーマに、現場で起きた不可解な現象を題材として取り上げ、その原因を紐解いていきます。
GF強化樹脂の成形品は、R付けや肉盛りにご用心!:ベテランも陥るプラスチック成形の罠(3)
2026.07.29
この記事では...
(執筆:茂木 淳志/PLAMO株式会社 代表取締役 博士(工学))
はじめに:標準条件でも牙をむく「配向の乱れ」
前回は、ヒートアンドクール(H&C)工法や極端な厚肉成形など、意図的な高温化や形状がガラス繊維(GF)の配向をTD方向(流動直角方向)に変えてしまい、強度低下を招くメカニズムを解説しました。
これを聞いた技術者の中には、「うちは一般的な金型温度だし、樹脂温度も標準値、製品も薄肉だから関係ない」と思われた方がいるかもしれません。しかし、ここに大きな罠があります。成形機の設定パネルに表示されている温度が正常であっても、金型内部の局所に問題がある場合があります。また、強度不足を補うための定番の設計変更であるはずなのに、そのせいで最悪の結果を招いてしまうこともあります。
今回は、金型構造や設計変更の盲点について解説します。
1. 局所的な熱溜まりが発生
射出成形における金型は、単に樹脂を形作る器ではなく、溶融樹脂の熱を急速に奪って固化を促す熱交換器としての役割も担っています。
効率よく均一に熱を逃がすことが成形品の品質を安定させる絶対条件ですが、金型の構造上、どうしても熱が逃げずに溜まってしまう部位が発生します。
主に、以下の2つのパターンが原因です。
- 駒(入れ子)の分割による熱遮断:
アンダーカット処理やガス抜き、加工の都合で金型を細かく割って駒にすると、駒と駒の間のわずかな空気層が断熱材の役割を果たしてしまいます。結果として熱伝達が妨げられ、熱が金型ベースへと逃げていきません。
- 細い・薄い駒構造:
製品の狭いスリットやボスなどを形成する細・薄駒は、そもそも冷却水管を通すスペースがありません。樹脂から受ける熱量に対して駒自体の熱容量が圧倒的に足りず、熱がこもり続けます。
これらの部位では、全体の金型設定温度がたとえば 60℃であっても、連続成形によって局所的に設定温度より100℃以上も高温(160℃ 以上)に跳ね上がっているケースが珍しくありません。

2. 良かれと思った補強対策がアダに
試作段階、あるいは量産初期に「このピンの根元が折れやすい」「このR部周辺の強度が足りない」という問題が発覚したとします。
肉厚を増す(肉盛り・リブの追加)、コーナーにRを付ける(応力集中の緩和)といった対策は定番です。「肉を厚くし、Rを大きくすれば、断面積が増えて応力集中も消えるから強度は上がるはずだ」と、考えると思います。
しかし、GF強化樹脂(ガラス繊維強化樹脂)において、前述の蓄熱してしまう部位で、この対策をしていると、このような問題が起こります。
強度不足発覚したので、肉盛りやR付けを施す。
↓
その部位の樹脂量が増え、熱量も増加する。
↓
もともと熱が逃げない駒がさらに蓄熱。
↓
そこから、せん断力が消失。
↓
繊維がTD方向(流動直角方向)へ配向する。
↓
狙った荷重方向に対する強度が低下する。
肉を盛ったことで、その部位に流れ込む樹脂の熱量がさらに増えます。ただでさえ熱の逃げ場がない駒は限界を超えて過熱され、製品内部はゆっくり冷却される厚肉構造になってしまいます。
結果として、前回解説した「①肉厚増加」「②金型温度の高温化」「③樹脂温度の高温化」の3条件が成立してしまいます。
せん断応力は失われ、ガラス繊維は荷重方向(MD)ではなく、完全に直角方向(TD)を向くか、あるいはランダムに浮遊します。
強度を上げるために肉を盛った結果、繊維配向がグチャグチャになってしまうことで、かえって折れやすくなってしまうのです。

まとめ:CAEで見抜けない罠に気が付いて
このトラブルの厄介な点は、一般的な流動解析(CAE)の標準設定では見落とされやすいという点にあります。多くの解析では「金型温度は全域で一定(定常状態)」として計算されるため、連続成形による駒の過渡的な蓄熱や、それに伴う局所的な繊維配向の変化まで正確に予測できないことがあるからです。
「折れたから肉を盛る」というアプローチが、GF強化樹脂においては時に致命傷になってしまうというわけです。
よって、必要なのは、以下の視点です。
- 製品設計者: 肉を盛る前に「この部位を形成する金型の形はどうなるか?熱は逃げるか?」を想像する。
- 金型設計者: 蓄熱が予想される細駒には、高熱伝導材(ベリリウム銅など)を採用する、あるいは入れ子割りを工夫して熱の逃げ道を確保する。
表面的な形状変更だけで解決しようとするのではなく、金型内部の熱の動きや繊維の挙動の影響も考慮してみてください。
(次回へ続く)
PLAMO株式会社 代表取締役 博士(工学)
IMP/IMM工法の開発者 「材料×成形×金型」の総合的知見と現場のリアルなノウハウを武器に、射出成形の限界を突破する技術コンサルタントです。原因不明の成形不良や暗礁に乗り上げた開発案件にこそ、当社の技術が真価を発揮します。
