石油化学市場にも深刻な影響を与えているコロナ禍。今回は「ナフサレポート」の番外編として、アフターコロナの世界秩序と生活様式(ライフスタイル)の変化について論じ、これからの企業のあるべき姿について考える。
アフターコロナの世界秩序と生活様式はどうなるのか?:ナフサレポート
2020.06.09
今回の記事は…
新型コロナウイルス拡大に伴う景気後退は、1929年の世界恐慌以来となる規模であることは、既に国際通貨基金(IMF)が指摘した通りだ。自由貿易からブロック経済と呼ばれる自国中心の計画経済への方針転換を余儀なくされた世界は、借金を背負っていた国や、金融経済の制御に失敗した国を中心に、ファシズムが横行。国同士の対立を招き第二次世界大戦へと昇華された。
コロナ危機は世界恐慌以来となる景気後退を引き起こしている。国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)は月報で、新型コロナウイルスの感染拡大は緩やかとなり、石油需要は2020年4月に対前年同月比日量2900万バレル減少するところから、2020年12月には対前年同月比同270万バレルの減少となると予測しているが、コロナ危機の収束はおろか、コロナ以後(アフターコロナ)の世界の自由貿易の在り方、人々の暮らしの在り方、移動の在り方そのものが変わる可能性がある中で、このIEAの予想は非常に脆弱といえる。
安倍晋三首相はジャーナリストの田原総一朗氏と面会した際、このコロナとの戦いを「第三次世界大戦」と表した。しかし、このコロナの封じ込めよりは、世界の政治・経済の秩序に対する再構築の方が、むしろ火力を伴わない第三次世界大戦となる可能性を秘めているのではないだろうか。
今回は、このアフターコロナの世界秩序と生活様式(ライフスタイル)の変化について論じていきたい。
世界秩序――中国と欧米間の対立は深まったうえで、グローバル経済の再鎖国化が進む

ドナルド・トランプ米大統領は中国に対し、新型コロナウイルスへの政策対応が遅れ、情報公開において致命的なミスを犯したことを批判した上で、武漢ウイルス研究所との関連性を示唆。近日中にウイルスの起源に対して調査結果を報告すると語った。このウイルスによって犠牲になった人数が最も多いのは圧倒的に欧米諸国である点を、私たち日本人は忘れてはならない。愛する家族を失った悲しみ、感染への不安、そして仕事を失ったことへの失望、それらが最も大きいのは感染拡大が始まった中国を含むアジア地域ではなく、欧米地域なのだ。
ドイツ最大発行部数を誇る日刊タブロイド紙「ビルト(Bild-Zeitung)」は社説で、中国に対して損害賠償請求を起こすよう提起。中国人民政府は、ドイツにある中国大使館を通じてすぐに反応し、批判した。それに対して、「ビルト」紙の編集者であるユリアン・ライヒェルト編集局長は動画サービスのYouTubeを通じて中国の習近平指導部に対し、以下の通り回答した。
<原文>
“Your Embassy tells me that I am not living up to the “traditional friendship of our peoples”. I suppose you consider it a great “friendship” when you now generously send masks around the world. This isn’t friendship, I would call it imperialism hidden behind a smile – a Trojan Horse. You plan to strengthen China through a plague that you exported. You will not succeed. Corona will be your political end, sooner or later.”
<筆者訳>
“あなた方の大使は私に対し、これまでの「正統な友人関係」に沿った行動をしていないと言う。あなた方はたくさんのマスクを世界中に送ることを素晴らしい「友人関係」と見なしているようですが、それは友人関係ではなく、笑顔の裏に隠された帝国主義と呼ぶべきものです。マスクはいわば「トロイの木馬」なのです。あなた方は自分が輸出した疫病を通じて中国をより強いものにしようとしているが、それは成功しないでしょう。遅かれ早かれ、コロナはあなたの政治的な終焉(しゅうえん)となるだろう。”
世界の工場だった中国は、今回の新型コロナをめぐる対応を通じて、欧米の信頼を失う結果を招いている。これまで特に製造業におけるグローバル経済の中心を担っていた中国リスクがあらためて認識されたことにより、マスクなど医療物資を含むさまざまな生産物において自給率を高める向きが強まるだろう。世界経済はこれまでグローバル化を前提に成長してきたが、今後はローカルな経済圏の重要性が認識されることにより、サプライチェーンの絵姿が大きく変わる可能性がある。平たく言えば、政治的な基盤が先進国と大きく異なる中国に対して、世界は大きく依存しすぎたということなのだろう。
また、米国は2018年より、かつて1980年代の日本に対してと同様に、中国に対しても先進国と同等の義務を担うよう要請してきた。その手段の1つが、トランプ米大統領による貿易戦争だった。その歴史の延長線上に、今回のコロナ禍が存在している。中国に対する欧米諸国の不信感は、世論調査や上記のビルト紙にある通り明らかであり、この中国と欧米諸国との間の対立軸の中での世界を、私たちはより真剣に見据えていく必要がある。
現在、2019年12月の第一段合意後に中国側が米国製品の大量輸入を決定したことにより収束へと向かいつつあった米中間の貿易戦争は激しく再燃しておかしくない。それは中国や欧米と密接に関係している日本において、特に重要ということは言うまでもない。2018年以降、米中間の対立に伴う関税影響、自然災害に伴うサプライチェーンの寸断を経験してきた産業界は、サプライチェーンの総点検をより根本的に実施する必要があるだろう。
生活様式――人の密集を前提にした移動は低迷した状況が続く

今回、世界の総人口にあたる約77億人のうち、約45億人がロックダウン、ないしは自宅待機の状況を経験した。基本的に不要不急のビジネスは自宅で行い、取引先との打ち合わせなどは「Skype」「Webex」「Microsoft Team」や「Zoom」などWeb会議システムを使用するようになった。これらのソフトで、“70点”くらいのまずまずなコミュニケーションは実現でき、会社というハードな場の存在意義が希薄化したといえる。
一方、態度や息づかいなどから導かれる「場の雰囲気」は参加者で共有できないことから、なかなか“80点”以上とまではいかないのが実際のところではないだろうか。ただし、従前のように「毎回のように皆で集まる必要性がある会議」など、それほど存在しなかったということを、今回のリモートワークを通じて各企業が実感しているようである。
新型コロナウイルスの克服以降においても、業務体制や働き方そのものが見直される状況となるだろう。ハードな場であるオフィスのニーズは最小限に抑えられそうだ。当然、オフィス向け不動産にとっては逆風となるだろう。
また、人の密集を前提にした移動手段に対しても厳しい状況となりそうだ。オーストラリアの航空大手であるカンタス航空 最高経営責任者のアラン・ジョイス氏は「国際旅客需要が回復までに数年は要する」との見通しを表明し、2021年末までの運転資金調達を急いでいる。国内の移動手段はともかく、国境をまたいだ移動手段については引き続きリスクが意識され、低迷しそうだ。無差別で自由な人間の移動がグローバル経済を支えてきたが、それはもはや通用しない世界を想定しなければなるまい。
一方、コロナ禍による生活様式の変化によって恩恵を受ける産業もある。これまでは個包装や過剰包装に対して厳しい矢が向けられていたが、コロナ禍によって事態は一変した。衛生保持のために必要なパッケージの重要性が認識され、スーパーやバイキングではトングの共有による感染リスクを低減するため、食品の個包装が採用されるようになった。そして巣ごもり需要やテイクアウトニーズの拡大は、これまで削減方向に働いていたパッケージの大切さをあらためて認識させるのに十分だ。ほとんどの産業において需要が停滞している中、足元においても石化製品需要を下支えているといえる。マスク、消毒剤、除菌剤などは、医療従事者だけではなく市民のレベルにおいて需要が高まっており、多くの石油化学メーカーがその原料を増産している状況だ。
このような時代の変化は、ビジネスチャンスにもなり得る。今後は、新しい時代のニーズに対応できる企業が繁栄していくことになるだろう。過去の姿に復帰することに精を費やす企業は、残念ながら、過去の状態にすら回復は望めないだろう。時間は不可逆であり、変化をないものにはできない。まずコロナ禍を克服するため、安心して生活できる社会体制(治療法確立、ワクチン、抗体調査とその社会的運用)の確立が必要となるが、今のうちにアフターコロナの状況を見据えた準備をしておくことを、さらなる成長と脱皮のために、読者の皆さんにおすすめしておきたい。
【柳本 浩希(やなぎもと・ひろき)】
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
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1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
