世界的な原油価格下落に伴うシェールオイル生産量の減少は、石油化学製品へどのように影響するか解説する。今回は、原油相場編。
シェールオイルの動向から相場を見る【原油相場編】
2020.08.18
今回の記事は…
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
世界的な原油価格の下落に伴い、シェールオイルの生産量が減少している(図1)。シェールオイルは石油需給だけでなく、昨今では随伴して生産されるエタンを原料に生産されるポリエチレンやモノエチレングリコール(MEG)など石油化学製品への影響が大きい。そのため、アジアで石油化学産業の一端を担う私たちも、このシェールオイルの動向を二重の意味合いで知っておく必要があるといえる。
【 図1:シェールオイル生産量の推移 】
1つは原油相場を決定する大切な要因、そして2つ目はシェールベースの石化製品の動向を把握するという意味においてである。昨今のコロナ禍により世界の石油需要が減少し、油価は暴落。足元の原油相場は反発傾向にあるが、今後のシェールオイルの動向についてそのような観点から2回に分けて論じていきたい。
シェールオイルとは米国やカナダを中心に採取される原油の一種。在来型の原油(地層と地層との間に蓄積した炭化水素油)とは異なり、これまでは硬く採掘不可能とされていた頁岩(けつがん)と呼ばれる層を特殊な技術で流動化、漏れ出る炭化水素油を採取することにより生産される。シェールブームが興る前までは、多くの市場参加者はこのシェールオイルに対して採掘コストが割高であることから、生産量が増加するとは考えていなかった。
しかし、技術革新によって低コストで生産できるようになり、大方の予想を裏切り、生産量は大幅に増加した。2007年1月には1日当たり135万バレルだったこのシェールオイルは、年々増加し2020年1月には同914万バレルへと大幅に増加。これにより在来型原油を含んだ米国全体での原油生産量はほぼ倍増し、世界一の原油生産国へとのぼりつめた。
米国の世界シェアは2011年に9%だったところから18%へと拡大し、米国が増産する分のしわ寄せはOPECへと帰結し、協調減産をすることにより世界の石油需給はバランスしてきた(OPECのシェアは2011年に39%だったところから33%へと縮小)。一方、OPECのシェアはサウジアラビアを中心としたOPECが協調減産することにより減少し、世界の需給はバランスしてきた。
しかし、足元で新型コロナウイルス感染拡大を受け、石油需要は大幅に減少した。また、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)、クウェートが2020年4月に増産を実施したことにより原油相場は1バレル50ドルから10ドル台へと大幅に下落。シェールオイルの採算分岐点(掘削済の油井で20ドル後半、今後掘削を開始する新規の油井で40ドル後半とされる)を大幅に下回る相場の水準となったことから、減産が始まった。上記のグラフに示した通り、シェールオイルの生産量は1日当たり900万バレルあったところから既に150万バレル程度まで減少。足元では日量750万バレルで推移した。
油田を開発する際に必ず掘削する必要があるが、その掘削機械は「リグ」と呼ばれ、そのリグが稼働しているということは現在掘削しており、将来的に新たな油田が操業(生産)開始となるということを意味している。図2のグラフに示したのが、リグ稼働数という掘削するために稼働中のリグの推移だ。
【 図2:リグ稼働数の推移 】
コロナ渦以前と以後で、稼働しているリグの数は500基近く減少している。
新規リグが減少しているということは、今後生産量が完了した油井よりも新たに開発された油井の数が減少していくことを示しており、シェールオイルの生産は1日当たり650万バレル程度へとさらに減少する可能性がある。オイルメジャーと呼ばれるエクソンモービルやシェブロンフィリップスは、油価の下落を受け今後の投資を削減する方針を明確化。シェールオイルの掘削を中心に実施している中堅企業であるホワイティングペトロレアム、チェサピークエナジーなど18つの企業が連邦破産法11条を適用し、企業倒産に追い込まれた。米国内で石油やガスの操業支援に携わる労働者数は2020年5月に19万6000人とコロナ渦以前よりも約6万人減少した。
足元では大規模な金融緩和、そして戦後最大といわれる先進国による財政出動による景気対策が評価され、原油相場は株式と同様に買い戻されている。OPECプラスによる計画的な協調減産も手伝い、原油相場は40ドル近辺まで買い戻された。そのため、リグ稼働数の減少幅は緩やかとなっている。仮に今後、トランプ米大統領が再選に向けて大量の財政出動による景気浮揚策を実施するほか、新型コロナウイルスへのワクチン開発が順調に進行すれば、先物相場はさらに上昇することが想定される。しかし、原油相場が50ドルへ近づけば近づくほど、今度はシェールオイルが新規油井の採算分岐点を超えることにより、息を吹き返すことが想定される。
原油が値を上げれば、小回りが利くというシェールオイルの長所が発揮される可能性が高い。一方、石油需要が2019年の水準へと戻るのは時間を要し、主要機関は2022年以降と予想している。そのため、それまでは原油相場が値を上げてシェールオイルが増産すると、その分サウジアラビアを中心としたOPECが減産せざるを得ない状況となることから、OPECは減産幅を縮小させるなどの対応を図り、原油相場を下押すだろう。そのため、原油相場の中心価格帯は年末まで35~45ドルのボックス圏で推移するとの見方が多い。トランプ米大統領がサウジアラビア産原油に関税をかけるなどして、国内シェール産業保護に乗り出すことは、共和党の精神である自由主義に反することから、想定しづらい。
しかし、何が起きるか分からないのが、今度の米大統領選であり、その動向には注視した方が良さそうだ。今後の原油価格とシェールオイルの動向には注目していくと、日々のマーケットや政治経済のニュースを、より生きた情報として理解できるだろう。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
