「プラスチックの強度」について解説する本連載の3回目は、プラスチックの粘弾性について解説する。
プラスチックはなぜ粘弾性を示すのか:プラスチックの強度(3)
2020.10.06
この記事では…
(執筆:本間精一/本間技術士事務所)
プラスチックに力を加えると瞬間的に弾性ひずみによる応力が生じるが、時間が経つとポリマー間のずれによる粘性ひずみが生じる。このように弾性と粘性を合わせ持つ性質を「粘弾性」という。学問的には粘弾性は「スプリング(弾性)」と「ダッシュポット(粘性)」を用いた粘弾性モデルを用いて説明するのが、難解であるので概念図を基に解説する。
プラスチックに力または変形を与えたときの概念を図1に示す。

【 図1 弾性ひずみと粘性ひずみの概念図 】
ポリマ―間はファンデルワールス結合(前回解説)で引き合っているので、同図(a)のように力を加えた瞬間にはポリマーの原子間隔や結合角が変位することで弾性ひずみによる応力が発生する。
しかし、同図(b)のように力をかけ続けると弾性ひずみと同時にポリマー間のずれによる粘性ひずみ(せん断降伏ひずみ)が発生する。その後に力を解放しても、弾性ひずみは復元するが粘性ひずみは復元しないで永久ひずみとして残留する。弾性ひずみは時間には依存しないが、粘性ひずみは時間に依存性するので、プラスチック製品の設計では応力またはひずみを負荷している時間を考慮しなければならない。
図2はプラスチックの引張の応力―ひずみ曲線の例である。

【 図2 プラスチックの応力ーひずみ曲線 】
弾性体の応力―ひずみ線は直線になるが、プラスチックではひずみが増大するにつれて、直線より下に外れた曲線になる。引張試験は、比較的ゆっくりした一定速度で引っ張る試験法であるので、引っ張っている間に時間が経過する。時間の経過とともに、粘性のひずみが大きくなるので直線から外れることになる。従って、プラスチックはひずみが大きくなるとフックの法則は成り立たなくなる。材料力学や機械設計の強度計算式はフックの法則が成り立つ弾性体であることを前提にしているので、プラスチック製品に適用すると計算誤差が生じることに注意しなければならない。
次に、粘弾性特性は温度によっても変化することも留意しなければならない。温度が低くなるととポリマ―の熱運動は不活発になりポリマー同士が近接するため弾性ひずみが支配的になる。一方、温度が高くなるとポリマ―の熱運動は活発になるため粘性ひずみが支配的になる。つまり、温度が低くなると弾性体の挙動に近づき、温度が高くなると粘性体の挙動に近づく性質がある。
図3にプラスチックの応力―ひずみ曲線の温度による変化の例を示す。

【 図3 応力ーひずみ曲線と温度の関係 】
次回は、粘弾性に起因する応力緩和について解説する。
本間 精一(ほんま・せいいち)
三菱ガス化学、三菱エンジニアリングプラスチックスにおいてPC,POM,変性PPEなどの研究開発に従事。退社後は技術士事務所を開設。プラスチック全般の技術コンサルティングや執筆活動を行っている。著書には「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社)、「プラスチック材料大全」(日刊工業新聞社)、「設計者のためのプラスチックの強度特性」(丸善出版)他多数

