応力と薬液が共に作用して発生する「ケミカルクラック」について解説します。
ケミカルクラックとはどのような現象か :プラスチックの強度(12)
2021.04.22
この記事では…
(執筆:本間精一/本間技術士事務所)
ケミカルクラックは応力と薬液の共同作用でクラックが発生する現象である。応力(ストレス)の存在下でクラックが発生するのでケミカルストレスクラックとすべきであるが、略して「ケミカルクラック(化学的クラック)」と表現する。非晶性プラスチックでは溶剤類でクラックが発生することから「ソルベントクラック(溶剤クラック)」とも表現するが、溶剤だけではなく油、界面活性剤、その他の化学薬品なども同様な作用をするものがあるので、広義にはケミカルクラックという用語が用いられる。一方、薬液に限らず、気体などを含めて全環境中の影響要因を対象として「環境応力亀裂(ESC:Environmental Stress Cracking)」という用語を用いることもある。
ケミカルクラック発生機構の仮説を図1に示す。

図1 ケミカルクラックの発生機構(仮説)
プラスチックは長鎖線状ポリマーの集合体である。薬液中にプラスチックを浸漬または接触すると、ポリマーの間隙に薬液が浸透(拡散)する。薬液が浸透するとポリマー間隔が広がり結合力が弱まるのでポリマーは動きやすくなる。その場合、成形品中に応力が存在すると急激に応力緩和することでクラックが発生すると推定される。従って、ケミカルクラックが発生するための要件は次の2つである。
(1)応力が存在すること
(2)薬液がプラスチックに浸透すること
薬液がプラスチックに浸透しやすいほど、ケミカルクラックは低い応力で発生する傾向があるが、完全に溶解させる薬液ではクラックが発生しなくなるので複雑である。
次に、ケミカルクラック限界応力を求める4分の1だ円試験法と測定例を説明する。図2に示すように、長軸10cm、短軸4cmのだ円を4つに切った治具にシート状試験片を取り付けると、だ円の曲率半径に応じて試験片表面にはひずみが発生する。

図2 4分の1だ円治具と試験片のセット法
ひずみは次式で求める。
また、ひずみεに対応する応力(初期応力)は、次式で与えられる。
たとえば、肉厚1.0mmの試験片を用いて、4分の1だ円の位置とひずみの関係を上式から求めると図3になる。

図3 クラック発生位置とひずみの関係
だ円形状に沿わせて取り付けてひずみを発生させた試験片を薬液に浸漬または接触させて放置すると、限界ひずみ以上ではクラックが発生する。たとえば、同図のように、χ1のひずみでクラックが発生したとすると、同図からクラックが発生する限界ひずみεcを読み取ることができる。次にεcとヤング率Eからケミカルクラック限界応力σcを求めることが可能である。
ポリカーボネート(PC)を用いたときの各種溶剤におけるケミカルクラック限界応力の測定例を表1に示す。

表1:4分の1だ円法によるケミカルクラック限界応力測定例(PC)
(出典:本間精一編、ポリカーボネート樹脂ハンドブック、p.177,日刊工業新聞社(1992))
同表のように溶剤の種類によって限界応力は異なることが分かる。また、メチレンクロライド(塩化メチレン)のように完全に溶解させる溶剤ではケミカルクラックは発生しなくなることが分かる。
ケミカルクラックの対策については、後に予定している「割れトラブル事例と対策」の記事で解説する。(次回へ続く)
本間 精一(ほんま・せいいち)
三菱ガス化学、三菱エンジニアリングプラスチックスにおいてPC,POM,変性PPEなどの研究開発に従事。退社後は技術士事務所を開設。プラスチック全般の技術コンサルティングや執筆活動を行っている。著書には「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社)、「プラスチック材料大全」(日刊工業新聞社)、「設計者のためのプラスチックの強度特性」(丸善出版)他多数



