ここのところの石炭やガスの価値上昇と、石油化学製品市場への影響について解説する。
原油・ナフサ価格の急騰――ガスも石炭も、とにかく高い!:原油相場動向
2021.10.26
この記事では…
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
原油相場は2021年10月12日時点で、WTIが1バレル当たり80ドル、ブレントが84ドルの高値を付けている。ナフサは1トン当たり770ドルを超えており、7年来の高値を付けた。この1カ月間で天然ガスや石炭相場が急騰し、およそ全ての炭化水素の価値が引き上げられた。このガスや石炭の価値上昇は原油・ナフサのみならず石油化学製品にも多大な影響を与えており、今回はこの背景について、解説したい。
メタン(C1H4)を主な構成要素とする天然ガスは現在、世界的に低炭素発電原料として注目されている。特に大気汚染対策が喫緊の課題となっている中国では輸入量が大幅に増加し、天然ガス生産量世界一の米国からの輸入に依存している。米国ではアジア向け輸出が増加し在庫水準が低位となる中、相次ぐハリケーンの襲来によって生産量が一時的に減少し需給はタイトとなり相場は引き上げられた。
また、世界第2位の生産量を誇るロシアは欧州向けの輸出を絞っており、欧州の天然ガス在庫は歴史的な低位となった。これによって欧州では発電原料としてLPGを使用せざるを得ない状況に陥り、LPG相場も引き上げられた。ロシアが供給を絞っている背景について、ロシア国営企業のガスプロムが計画しているバルト海を通りドイツへと抜ける新規パイプライン、ノードストリーム2(Nord Stream 2)の供給規格についてドイツを中心としたEU側の厳しい水準に対して一定の譲歩を引き出したい思惑があると複数の欧州メディアが報じている。
さらに天然ガスにおいて世界第1位の米国の需給がタイトとなる中で、ロシアは自国の在庫を引き上げることで高値の相場を十分エンジョイできる状況だ。同国の中心産業であり相場の上昇はそのまま国益につながることから、足元の需給ギャップを有効に利用していると想定される。2017年に北海の天然ガス田の生産がなくなったことでラフの貯蔵設備を閉鎖したイギリスでは、液化天然ガス(LNG)を輸入に頼る状況で、燃料相場の上昇に頭を悩ませている。

図1:液化天然ガス(LNG)および石炭の相場推移
上に示したグラフ(図1)の通り、足元の天然ガス相場はアジアや米国を襲った寒波の影響によって暖房向けの発電需要が増加した2021年1月に付けた瞬間的な高値へと上昇している。今回はじわじわと上昇しており、瞬時的な相場の動きとはなっていないことから、各方面に大きな影響を及ぼしている。
さらに、石炭は中国や東南アジアにおける生産が伸び悩んだ他、高値のLNGを嫌気した発電需要家が石炭の調達へ振り替えたことを受け、大幅に値を上げた。結果として、LNGと石炭は共に史上最高値を付け、まさに異常事態となっている。異常な高値に対して、財政基盤がぜい弱な新興国を中心に電力使用制限の措置が広がっている。
石油化学製品への影響も広範に及んでいる。天然ガス(メタン)を原料にするアンモニア(天然ガスから水素を分離して空気中の窒素と反応させる)およびその誘導品(尿素、メラミン)や、メタノールおよびその誘導品(酢酸)のコスト上昇要因となる。メタノールはMTO(メタノールtoオレフィン)を経由して中国におけるエチレンやプロピレン生産の原料となる。欧州では尿素が主原料となる肥料価格や電気代の高騰が懸念されている。中国では特に製油所と併設されていない内陸部の石油化学品コンプレックス(BASFの重慶にあるMDI装置、40万トン/年など)において発電や蒸気供給の要となる発電やボイラー装置の原料として天然ガスは重宝されており、コスト上昇圧力となることは言うまでもない。

図2:ナフサとプロパンの価格推移
天然ガスに随伴して生産されるエタン(C2H6)相場の上昇は北米のエタンクラッカーのコスト上昇圧力となり、エチレン相場を支援する。そしてLPG相場が欧州での需要増加を背景に、上のグラフ(図2)の通り天然ガス相場に連れ高となっており、ナフサ対比で100ドル以上高い状況となっている。これによってPDH装置やガスベースのクラッカーにおけるコスト上昇は避けられず、オレフィン相場の上昇圧力となっている。当然、クラッカーマージンが引き上げられることでナフサ相場も支援されることになる。
Nord Stream 2についてロシア側は完工していていつでも供給を開始できると発言しているが、ドイツ当局がどのように出るのか、そして北米の一時的な供給減が解消された後需給のタイト感は後退するのか、注視される。中国など環境規制が欧米に比べてそれほど高くない国々では公害問題をよそに石炭や原油などの代替原料へとシフトしており、原油相場も大幅に引き上げられた。世界一ガソリンを消費する米国では、原油の上昇によって大幅に高値となっているガソリン価格による経済への影響を懸念する声が高まっており、OPECへの原油増産を依頼する場面も出てくるだろう。
天然ガス相場の上昇はいずれロシアからの供給が増加するなど、供給が増加することによって天井を打つものと考えられる。しかし、米大手石油会社のシェブロンCEOが発言している通り、天然ガス相場はこの冬場、例年よりも高値で推移するというのが大勢の見方となっている。いずれにしても上記の通り、ガス相場の上昇による影響は多岐に渡ることから、今後の動向を注視したいところだ。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
